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2010/01/05更新

第1回 図書館と電子ジャーナル

 学術雑誌の価格上昇が毎年続く中で、大学として購読できる雑誌数を削減せざるを得ない状況が続いています。
 この問題について図書館ではこれまでも利用調査やアンケート調査の結果等に基づき、図書館委員会で検討の上対処してきましたが、これと関連して今後はとくに電子ジャーナルの利用のあり方が大きな問題になっております。つまり、本学の教育、研究、診療におけるニーズにこたえるためには、電子ジャーナルをどの程度、どのように選定し、どのような利用環境を整えるべきかなど、全学的に考え、判断されるべき問題です。
 図書館では、このような問題について考えるため、利用者の皆様から生の声を直接お聞きし、話し合う機会をもちたいと考え、去る平成17年 (2005年) 3月22日にシンポジウムを開催いたしました。
 ここでは、当日参加できなかった方のために、配付資料を掲載しています。なお、今後も継続的な開催を計画していますので、取り上げてほしいテーマなどございましたら、学術情報センター図書館までご連絡ください。

「図書館と電子ジャーナル: 図書館における雑誌講読と電子ジャーナル利用環境について考える」
 日 時: 平成17年 (2005年) 3月22日 (火) 17時30分〜18時30分
 場 所: 大学1号館6階講堂 (西新橋)
 内容:
  1) 購読雑誌数減少の実状: なぜ図書館の購読誌が減っていくのか?
  2) 本学での電子ジャーナルの導入: 契約方法は? 価格は? 利用状況は?
  3) 電子ジャーナル購読に関わる問題点: ネットワーク利用環境、契約中止後の利用他
  4) 電子ジャーナル購読費の値上りへの対応: 国内他大学での事例
  5) 質疑応答
お問い合せ先: 学術情報センター 図書館
 自動オペレータサービス 03-5400-1200 + 内線2121
 電子メール: libsys@ jikei.ac.jp (@の後ろのスペースを削除してください)

1) 購読雑誌数減少の実状: なぜ図書館の購読誌が減っていくのか?

当日のスライドはこちら

(1) 外国雑誌 (プリント版) の購読誌数と購読費
 平成6年 (1994年) から平成15年 (2003年) までの購読誌数と購読費の変遷を表1に示しました。10年間で購読誌数が165誌減少しています。
表1 当館における外国雑誌 (プリント版) の購読誌数と購読費の変遷
外国雑誌 (プリント版) 購読誌数 外国雑誌 (プリント版) 購読費 (円)
平成6年 (1994年) 605 52,649,000
平成7年 (1995年) 615 48,761,000
平成8年 (1996年) 576 55,716,000
平成9年 (1997年) 571 59,929,000
平成10年 (1998年) 455 61,495,000
平成11年 (1999年) 444 56,975,000
平成12年 (2000年) 453 57,324,000
平成13年 (2001年) 467 57,440,000
平成14年 (2002年) 443 60,042,000
平成15年 (2003年) 440 66,448,000

(2) 外国雑誌購読費の値上がりの原因と問題点
 表1に示されているとおり購読誌数が減少していますが、これは購読費の値上がりのためです。外国雑誌購読費の値上がりの原因として、次の点が挙げられます。
  • 掲載論文数の増加
  • 発行部数の減少
  • 電子化費用の負担
 値上がりと発行部数の減少の間では、「購読費の値上がり」→「購読中止」→「発行部数減少」→「購読費の値上がり」という悪循環が生じています。
 また、値上がりに関する問題点として、図書館を含む購読者は値上がりに従わざるを得ない状況にあることが挙げられます。
(3) 購読費値上がりに対する当館での対応
 購読費値上がりにより、購読誌数を削減せざるを得ない状況が続いていることに対し、当館では次の対応をとってきました。
  • 利用調査、アンケート調査による購読タイトルの選定
  • コア雑誌168誌の選定
  • 電子ジャーナルで利用できるタイトルのプリント版購読中止
 コア雑誌とは、当館として購読継続が必要と定められたものですが、このコア雑誌168誌選定の際に、学内の皆様から各種調査について協力をいただきました。

2) 本学での電子ジャーナルの導入: 契約方法は? 価格は? 利用状況は?

当日のスライドはこちら (1) (2) 1. / (2) 2.

(1) 電子ジャーナル導入の開始
 当館では、平成11年 (1999年) 1月に電子ジャーナル50誌の利用を開始しました。これら50誌はプリント版購読に電子ジャーナル利用が含まれていたものです。さらに、平成11年4月には電子ジャーナル250誌のパッケージであるProQuest Medical Libraryを導入し、その後購読誌数が加えられ、平成17年 (2005年) 3月現在、2,023誌の購読契約をしています。
表2 当館における電子ジャーナル購読誌数の変遷
外国雑誌 (プリント版) 購読誌数 電子ジャーナル購読誌数
平成11年 (1999年) 444 250
平成12年 (2000年) 453 400
平成13年 (2001年) 467 890
平成14年 (2002年) 443 950
平成15年 (2003年) 440 1,880
平成16年 (2004年) 403 2,020

(2)電子ジャーナルの契約方法と利用統計
1. 契約方法
 電子ジャーナルの契約方法には、次の3種類があります。
  • 無料型
  • 個別タイトル契約型
  • パッケージ型
 無料型というのは料金を支払わずに利用できたり、プリント版を契約すると電子ジャーナルも利用できるものです。パッケージ型は、複数のタイトルがセットになって提供されているもので、当館で契約している2,023誌のほとんどはこれに含まれます。
 表3に当館で契約しているパッケージの一覧を示しました。パッケージを契約するためには、その出版社のプリント版の雑誌を一定価格以上購読することが条件になっていることがほとんどです。各出版社のプリント版収入の維持という方針により、電子ジャーナルとプリント版両方に対して購読費を支払うという負担が図書館にかかっているのです。
表3 当館で契約中の電子ジャーナル・パッケージと平成16年 (2004年) の利用回数
パッケージ名 収載誌数 利用回数 (平成16年 (2004年))
BMJ Online Collection 24 (平成17年 (2005年)から購読)
Blackwell Synergy STM Collection 365 5,693
Cell Press 6 2,455
Lippincott Williams and Willkins (LWW) Fixed 100 + Ovid Biomedical Collection 175 5,464
Oxford University Press (OUP) Collection 150 4,332
ProQuest Health and Medical Complete 627 4,892
SpringerLINK 251 3,072
Wiley InterScience 190 3,340
合計 1,782 29,248

2. 利用統計
 当館で購読中の電子ジャーナル2,023誌のうち、1,985誌は利用統計が提供されています。
残りの205誌についても、利用回数を把握する必要があり、その解決策として、電子ジャーナル・リストで各タイトルが選択された回数を集計するための準備を進めています。
 利用統計が提供されている1985誌で、平成16年 (2004年) 1年間の利用回数の上位10タイトルは表4のとおりです。また、パッケージの利用回数を表3に記載しました。
表4 平成16年 (2004年) 1年間の利用回数の多かった電子ジャーナル
順位 誌名 フルテキスト利用回数
1 Journal Biological Chemistry 5,452
2 New England Journal Medicine 4,968
3 Circulation 4,192
4 Proc Natl Acad Sci USA 2,737
5 Journal Neuroscience 2,292
6 Blood 2,161
7 Science 1,952
8 Journal Clinical Oncology 1,744
9 Nature 1,636
10 Journal Immunology 1,560

3)電子ジャーナル購読に関わる問題点: ネットワーク利用環境、契約中止後の利用他

電子ジャーナルの問題点
○電子ジャーナルは、一定期間の利用の権利を買うもの
  • 冊子と同程度の利用料を支払っても、手元には何も残らない
  • 将来的な利用の保障がない
  • ?購入中止後の利用は
  • ?出版社の方針は変更されないか
  • ?出版社の買収・合併による方針変更は
○電子ジャーナルの利用はネットワーク環境に依存
  • 冊子であれば、本を開けばすぐに読むことができる
  • 電子ジャーナルには、コンピュータ、閲覧ソフト、ネットワークが必要
    →ネットワーク障害時には利用できなくなる
価格高騰問題への対策例1. コンソーシアム契約
○コンソーシアム契約とは
 複数の図書館が集まり、電子ジャーナルを団体で購入する方法。
 その出版社の電子ジャーナルがまとめてパッケージとされることが多く、1誌ごとに契約するよりは多少安価に契約できる。

○メリット
  • 少ない予算で多くの電子ジャーナルが利用可
  • 団結することで、出版社との交渉力強化
○デメリット
  • 冊子の購読を条件とする契約がある(タイトル数または金額)
  • パッケージタイトルが固定されている
    →中止したい冊子も中止できず、パッケージには利用のないタイトルも含まれ、ムダが多い。結局、経費安とはならない
価格高騰問題への対策例2. 不買運動
○目的
 法外な価格設定に対する図書館側の抗議

○海外での例
 アメリカの大学数校が、Elsevier社のパッケージ購読を中止 (Owen Dyer. BMJ 2004; 328: 543)
  <中止した大学>
  • Stanford Univ
  • Harvard Univ
  • Duke Univ
  • Cornell Univ
  • Massachusetts Inst Technol
  • Univ Connecticut
  • Univ California

○国内での例
  • 日本医大などがElsevier社の発行雑誌の購読中止
  • 「3ない運動」・・・買わない、投稿しない、査読者・編集者にならない
    日本の補助金による研究が外国の雑誌に投稿され、それが法外な価格の雑誌となり、図書館が購読できないという異常な状態を解決するための運動 (殿崎正明. オンライン検索 2003; 24(1-2): 1-2)
価格高騰問題への対策例3. オープンアクセス
○オープンアクセスジャーナルとは
 無料でインターネット上で公開されている電子ジャーナルのこと (広義)。

○運営方法
  1. 投稿者が投稿費用を負担
  2. 政府資金や財団からの資金援助によって運営されているもの
  3. 投稿者に選択権 (一定額の投稿費用を負担)
    (参考) NIHは研究助成した論文は発表後1年以内に無料公開する方針を発表した。(平成17年 (2005年) 2月3日発表 http://www.nih.gov/news/pr/feb2005/od-03.htm)

○動向
 質も向上し、商業出版のライバル誌にも対抗している、という報告が多い
価格高騰問題への対策例4. 学術情報流通の改革
○SPARC (Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)
  • 平成10年 (1998年) にアメリカのAssociation of Research Librariesにより設立
  • 学術雑誌の高騰を防ぐため、学術出版の世界に競争と変革をもたらすことを目的としている
<主なプロジェクト>
  1. 既存の高額誌に代わる高品質・低価格の代替誌出版プログラム
  2. 学術出版市場における競争を有利に進めるための支援プログラム
  3. まったく新しい学術コミュニティの発達を促進するプログラム
  詳しくは http://www.arl.org/sparc/ もしくは、http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/

4) 電子ジャーナル購読費の値上りへの対応: 国内他大学での事例

機関名 問題 対処方法 効果 実施後の問題点 実施年度
奈良県立医科大学 (1) 書庫狭隘化

財政逼迫のための購読誌減少
プリント版中止、オンライン版オンリーの購読へ移行 3.5%予算削減 ・電子ジャーナルシステムからの購読誌の消滅 ・アーカイブの確保
・プリント版より安価でない場合もある
・プリント版と電子版に内容の違いがある
・ライセンス契約等の複雑さ (サイトライセンス・同時アクセス数等)
平成12年
(2000年)
昭和薬科大学 (2) 雑誌価格高騰のための購読誌減少 Elsevier社の雑誌をプリント版1誌のみ残して購読中止、サイエンス・ダイレクト・トランザクション (PayPerView) 導入 (1論文22ドル・図書館負担) プリント版購読中止により1,875万円削減 ・過剰ダウンロード (利用停止)
・預託金残金不足のための利用停止
・ダウンロード数増加により雑誌購読より高額になる可能性
平成13年
(2001年)
東京医科歯科大学 (3) 電子ジャーナル有料化に伴う電子ジャーナルのための新規財源確保 受益者負担 (購読必要額を院生・教員などの利用者数で割り、医局や講座の所属人数分の金額を研究費より支払い。4,000円/人。上限金額30万円) 電子ジャーナル購読実現 平成17年 (2005年) 現在も問題なく継続中。3年目になり、講座に受益者負担の認識が浸透。支払〆切を守らない講座等には教授会から注意。 平成14年
(2002年)
島根大学 (4) 外国雑誌の購読中止による学術論文自給率の低下

書庫狭隘化
電子ジャーナル導入
資金提供は
1. 島根大学財務委員会より750万円/年 (学術情報基盤整備3年計画) 2. 文部科学省電子ジャーナル導入経費 3. 教室から電子ジャーナル導入費徴収 4. 専門誌は各教室の研究費と図書館雑誌購入費とあわせて購入 (研究費89%図書費11%)
論文自給率の上昇 ・3年計画終了後の電子ジャーナル購読費の安定的な経費支出体勢の早急な確立
・コア電子ジャーナル群の設定と総購読費の全面的な全額共通経費化
・島根医大と大学統合するので利用環境整備の再度の見直し
・電子ジャーナルパッケージの価格上昇
平成13年
(2001年)
(1) 廣井聰. 奈良県立医科大学附属図書館購読プリント版外国雑誌におけるオンライン版オンリーの購読への移行. 大学図書館研究 2001; 61: 41-53
(2) 母良田功. 外国雑誌価格高騰への対応. 薬学図書館 2004; 49(2): 80-3
(3) 石井保志. オンラインジャーナルの自主財源による運営. 医学図書館 2002; 49(3): 269-73
(4) 加本純夫ほか. 島根大学における電子ジャーナルを中心とした学術情報基盤整備計画 (2001-2003). 大学図書館研究 2003; 68: 26-36

5)質疑応答

 図書館職員からの報告に引き続き、ディスカッションの時間がもたれましたが、次のような意見が出されました。
  • 電子ジャーナルはプリント版と異なりモノが残らないが、将来も利用できる保証はあるのか。
  • 複数の大学でこれまで以上に強く出版社に価格交渉をすることは考えられないのか。
  • 電子ジャーナルのコア雑誌タイトルを選定してはどうか。
  • 米国NIHでは助成研究の成果を無料公開することを要請しているが、このような動きが広まる可能性もあるのではないか。
  • 電子ジャーナルのパッケージでは利用されないタイトルの方が多いため、パッケージを購入するか再検討が必要ではないか。
 また、電子ジャーナルの利用回数と購読費の話題が中心であったため、次の指摘もありました。
  • 学内で研究者の少ない分野のジャーナルの利用回数は少なくなるので、雑誌の評価は利用回数だけでなく総合的な視点から検討する必要がある。
  • 価格や誌数削減ばかりに目を向けず、大学の教育、研究、診療にとってどのような研究情報が必要かという議論が必要である。

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