![]() |
![]() |
![]() |
東京慈恵会医科大学総合医科学研究センターの研究所として本学附属柏病院の医学研究棟に開設された「臨床医学研究所」の並木禎尚専任
講師らは、産業技術研究助成事業(注1)(平成20~23年度:NEDO開発機構)の
一環として、異分野技術の融合をもとに「核酸医薬を迅速に導入し、がん治療の
発展に寄与する磁気誘導システム」の開発に成功しました。この成果は英国の科学誌Nature Nanotechnology誌(2009年9月号)(注2)に掲載されました。また、
同誌News and Views(注3)にも取り上げられ、全Nature姉妹誌を対象とした
Research Journal Highlightsの1つとして紹介されました(注4)。
さらに、世界中の全マテリアル系雑誌を対象とし、毎週1誌のみ選ばれる
Featured Highlight(2009年11月2日付)にも選出されています(注5)。 これを機会に、本研究のあらましを紹介させて頂きます。 1.背景 代表的な核酸医薬である短鎖干渉RNA(siRNA)は、あらゆる病原遺伝子を選択的に不活化することができます。一方、日本における最大死因である進行がんは年々増加しています。このがん治療に短鎖干渉RNAを用いる方法が考案され、こうした核酸医薬は副作用の少ない有望ながん治療薬として、実現化に向けて世界レベルでの関心と期待が集まっています。しかし、現状では、核酸医薬を病巣に「安全かつ効果的に送達する方法」は確立されておらず、その開発は最重要課題となっていました。 さらに、投与した短鎖干渉RNAの生体内分布を定量化するためには、従来法では、危険なアイソトープや高額な解析装置が必要となるなど、送達法の開発には数多くの高いハードルが存在していました。 |
![]() |
![]() 自己会合型磁性ナノ粒子を用いた 核酸医薬の磁気送達のイメージ 自己会合プロセス(時計回り)では、磁性コア(灰色)をインナーシェル(緑色)で被覆し、siRNA親和性アウターシェル(桃色)に結合した。こうして作製した磁性ナノ粒子に血管新生を阻害するsiRNAを担持させ、磁石で腫瘍に引き寄せたところ、強い抗腫瘍効果が確認された。 |
2.研究成果概要、及び本成果の意義 本研究にはいくつかの特徴があります。その特徴のひとつとして、磁気誘導システムとして磁性ナノ粒子を用いたことがあげられます。従来法による核酸医薬の導入では数時間を要するのに対し、磁性ナノ粒子を用いることでその行程を数分間に短縮できるという利点があります。一方、磁性ナノ粒子を製造する過程においても、(1)磁性結晶コアのナノ粒子への精度高い封入ならびに、(2)短鎖干渉RNA高親和性物質によるナノ粒子シェルの構築の両立はこれまで困難でした。今回、「自己会合型磁性ナノ粒子」を発明し、それをがん組織への核酸医薬の送達に用いたことにより、それらの課題を同時に克服できたことも本研究の特徴です。様々な病原遺伝子を選択的に不活化できる短鎖干渉RNAに代表される核酸医薬を「がん病巣に安全かつ効果的に導入可能」とした本研究成果は、がん治療に対して多大な貢献をするものと考えます。 より詳細な内容として、並木専任講師は「金属の毒性を回避できるチタニウムで被覆した生体適合性の高い磁石を新たに開発し、動物モデルのがん病巣近くに留置した。引き続き、短鎖干渉RNAを結合させた当該磁性ナノ粒子を静脈内に投与したところ、短鎖干渉RNAは、がん新生血管へ効率良く集積した。その結果、血管内皮細胞の増殖に重要な役割をもつ上皮成長因子受容体が不活化され、顕著な腫瘍休眠効果が認められた。」と述べています。 さらに、研究の過程で、アイソトープや高額な解析装置を必要とせず、投与した短鎖干渉RNAの生体内分布を、どこでも、簡便、かつ高感度に定量する方法の開発にも成功した(特願2009-077913)ことも大きな成果でした。今後需要の増大が予想されるがん治療・核酸医薬分野への本成果のインパクトは非常に大きく、バイオテクノロジー分野への大きな波及効果が期待されます。 今後の展望として、がん治療薬の磁気誘導効率のさらなる向上を目指し、最先端の異分野技術を融合した開発を共同研究施設である東北大学、東京工業大学と共に推進していくことになっており、ますますこれからの取り組みと成果が楽しみとなります。 本学で病態のメカニズムに迫り、少しでも簡便で安価な、かつ確実性のある病態診断法の開発、ならびに治療法の開発を志す若手医師、研究者は私どもの「臨床医学研究所」にお出で頂き、ともに研究の醍醐味を共有していきたいと思います。 (文責 臨床医学研究所所長 多田紀夫) |
||
![]() |
||
※(注1)NEDO開発機構ホームページ掲載 本学とNEDO共同プレスリリース(平成21年8月27日): NEDO開発機構ホームページ掲載 産業技術研究助成事業(若手研究グラント)の平成20年度第1回公募の採択テーマについて -産業技術シーズの発掘・育成と産業技術研究人材の育成を目指して-(平成20年4月24日): ※(注2)ネイチャ-ナノテクノロジー誌ホームページ(平成21年8月23日): Namiki Y, Namiki T, Yoshida H, Ishii Y, Tsubota A, Koido S, Nariai K, Mitsunaga M, Yanagisawa S, Kashiwagi H, Mabashi Y, Yumoto Y, Hoshina S, Fujise K and Tada N.A novel magnetic crystal-lipid nanostructure for magnetically guided in vivo gene delivery, Nature Nanotechnology 4, 598-606, (2009) ※(注3)ネイチャ-ナノテクノロジー誌ホームページ(平成21年8月23日): ※(注4)ネイチャーナノテクノロジー誌News and Views(平成21年8月24日): http://www.natureasia.com/en/highlights/index.php?year=2009&month=8 http://www.natureasia.com/en/highlights/details.php?id=430 ※(注5) Featured Highlight(平成21年11月2日): http://www.natureasia.com/asia-materials/archive_date.php?year=2009 NPG Asia Materials featured highlight dol: 10.1038/asiamat.2009.23 Published online 02 November 2009 |
||
![]() |