東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授 繁田雅弘
日本史や世界史に加え、古今東西の思想や小説などの古典、さらには科学・医学までも、マンガが導入のきっかけとなって専門書籍や論文に入っていく人が少なくないと聞く。ただ、そうした学習マンガと言われるものは、すでに確立された理論や思想を分かりやすく紹介していることが多いのではないだろうか。本書は、一見して真っ向から対立する理論もできる限り公平に紹介している点がユニークである。われわれ臨床医が、現場で最も苦労することの多い精神疾患への偏見から物語が始まっている。そして、必ずしも単純ではない様々のうつ病論を、丁寧にしかもとても分かりやすく解説している点に驚いた。一定の立場に立って、結論を単純化し、端折って手短にまとめるようなことは一切していない。むしろ著者は、持論でないからこそ丁寧に慎重に論じているのである。
たしかに、いずれのうつ病論も、軽症から重症までの重症度の違いや、随伴する様々な精神症状や身体症状の違い、抗うつ薬や認知行動療法、精神療法などの治療に対する反応の違いを説明できてはいない。いずれの理論も的外れではないが、十分に説明することもできない。われわれ臨床医は、うつ病のために生活に支障をきたしている患者さんが少しでもよくなればと、未だ体系立っていないうつ病の理論を部分的に参考にしながら、認知行動療法や森田療法を含む広義の精神療法、薬物療法、電気けいれん療法、経頭蓋持続的時期刺激療法などの中から治療を組み合わせて提供している。そうした経験によれば、様々に異なる病態に当てはまる理論は少なくとも現時点では一つではない。今後さらにうつ病の理解を深め、よりよい診断法や治療法の開発に際しては、どの説が正しいのかという択一的な観点ではなく、複数の説の理解を深め、それぞれの強みと弱みを理解しながら、データを集め分析していくことが必要なのだと本書が教えてくれた。
本書は代表的な精神疾患の一つであり、病因論にも様々な議論のあるうつ病に関する解説書である。それは読者とともに考えるという、真の意味での科学する視点を提供しているところにこの本の価値があると思った。
医師や研究者を志す人は、近藤研究室から発表された次の論文を読んでみることをお勧めしたい。
Kobayashi et al. Human Herpesvirus 6B Greatly Increases Risk of Depression by Activating Hypothalamic-Pituitary -Adrenal Axis during Latent Phase of Infection. iScience. 2020 Jun 26; 23(6): 101187. doi: 10.1016/j.isci.2020.101187
また、研究室のホームページでは、本書の前作にあたる疲労という者について分かりやすく解説した「疲労ちゃんとストレスさん」の元になった「マンガでわかる『最新!疲労・ストレス講座』」を読むことができる。
http://jikeivirus.jp/hiroukouza/