■ 第三病院TOPページ

小児科 アレルギー診療:食物アレルギー

小児科TOPに戻る

食物アレルギーは予防できる?

イラスト

食物アレルギーがあると、お子さんご本人も、またご家族も大きな負担を強いられます。
原因食物抗原(アレルゲン)が含まれる食品を誤って食べてしまうと、様々なアレルギー症状、時にはアナフィラキシーと呼ばれる激烈な症状に襲われるため、口に入れるものに対して常に気をつかわなければならないからです。

このようにやっかいな食物アレルギーを予防できたらとても良いことですね。では実際に予防は可能なのでしょうか?

予防を考える上でヒントとなるのは「なぜ食物アレルギーを発症するのか?」という事を考えることです。現在有力なのは、「経皮感作」すなわち、アレルゲンの皮膚への接触によって食物アレルギーになるという考え方です。それを証明した形になったのが10年ほど前(2011年頃)に起きた「茶のしずく石鹸事件」でした。これはその石鹸を使っていた方々が次々に重篤な小麦アレルギーを発症したという事件です。

その機序をご説明しましょう。石鹸に含まれていた小麦アレルゲン(グルパール19Sという成分です)が洗顔の度に皮膚を通して体内に入り込み、小麦アレルギーを誘発したのです。被害者の方は、この石鹼を使い始めるまで普通に小麦を食べていたのですが、茶のしずく石鹸を使っているうちに、ある日突然小麦アレルギーを発症してしまったのです。

実はその数年前から「食物アレルギーは皮膚からアレルゲンが侵入して発症するのではないか?(経皮感作(けいひかんさ)説と言います)」という新しい仮説がイギリス人の学者から提唱されていました。それまでは、赤ちゃんが食物アレルギーを発症するのは、妊娠中に母親が原因となる食物を食べたからと考えられていました。しかし妊娠中の母親が様々な食物を食べないように努めても、生まれてきた赤ちゃんは食物アレルギーを発症することが次第に明らかとなり、この考えでは説明が難しくなっていました。
「茶のしずく石鹸事件」は経皮感作説を実社会で証明した事例となったのです。イラスト

前置きが長くなりました。いよいよ予防の話です。赤ちゃんの皮膚を通して食物アレルギーを発症するのであれば、生まれて間もない時期から皮膚を保湿剤で守ってあげれば食物アレルギーを予防することができるのではないか、そういう発想が世界中の学者たちに芽生えました。

2014年に日本、そしてアメリカ・イギリスから有力な2つの論文が発表されました。アレルギー発症リスクの高い赤ちゃんに生後6〜8か月間、保湿剤の塗布を続けるとアトピー性皮膚炎の発症を抑えることができたのです。ただし残念ながら食物アレルギーの発症を抑えることまでは証明できませんでした。しかしアトピー性皮膚炎の発症は抑えられたので、もう少し長期に保湿剤を用いれば食物アレルギーの発症も予防できるのではないか、という期待が世界中に広がりました。

実際に赤ちゃんへの保湿剤の使用を積極的に勧める意見も多かったのです。

しかしながら2019年から2020年にかけて、保湿剤のアトピー性皮膚炎発症予防効果、食物アレルギー発症予防効果に否定的な論文が相次いで報告されました。イラスト保湿をしてもアトピー性皮膚炎を予防できないというだけなら、仕方のない事とも考えられます。しかし2021年に発表されたイギリスの有力な論文によれば、
保湿をしっかり行えば行うほど食物アレルギー発症のリスクが大きくなってしまう、というショッキングな内容でした。ただしここで用いられた保湿剤は単一のものではなく、オリーブ油が最多でした。日本の状況とはやや異なるようです。

このように賛否が真っ二つに割れている現状では保湿剤使用にも慎重にならざるを得ないと思います。

結論として食物アレルギーを予防する手立ては白紙の状態といえるでしょう。保湿剤に関しては、赤ちゃんの皮膚を主治医の先生に丁寧に診て頂き、最良の判断を仰がれるのが良いと思います。

イラスト

食物アレルギーのタイプと正しい診断

食物アレルギーは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義されています1)
少し難しい表現ですが、多くの患者さんに見られる食物アレルギーはIgE(アイ・ジー・イー)という抗体が関与する免疫反応です。(文献1より一部改変して掲載)

IgE抗体についてご説明します。IgE抗体は、通常は血液中に存在し、体内に入ってきた食物抗原(アレルゲン)と結合し、アレルギー担当細胞(マスト細胞)を刺激し、アレルギー反応を引き起こします。

イラスト

IgEの関与する食物アレルギーはさらに4つのタイプに分けられます。

タイプ 発症年齢 アナフィラキシーショックの可能性
食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎 乳児 (+)
即時型症状 乳児〜大人 (++)
食物依存性運動誘発アナフィラキシー 学童〜大人 (+++)
口腔アレルギー症候群 幼児〜大人 (+/−)

(文献1より一部改変して掲載)

なかでも、即時型症状(蕁麻疹など)が現れる食物アレルギーは当科を受診されるお子さんの中でも最も相談の多いタイプです。
即時型症状が現れる食物アレルギーの正しい診断のためには、「特定の食物により症状が現れること」、「免疫学的機序を介する可能性があること」の二つを確認することが大切です。
「特定の食物により症状が現れること」は、家庭での症状や食物経口負荷試験により確認されます。「免疫学的機序を介する可能性があること」は、特にIgEが関与する場合には、血液検査や皮膚テストで確認できます。
これらの検査が陽性であっても症状が出現したことが無い場合には、食物アレルギーの確定診断とはなりません。現在の臨床で用いられる検査は、アレルギー症状の現れない場合でも検査のみが陽性なることがしばしばあります。

食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎の場合には、症状としては湿疹が現れます。多くのお子さんは適切なスキンケア、保湿剤およびステロイド外用剤の塗布により症状がよくなります。食物の関与は部分的であることが多く、最初から過度の食物摂取制限が必要になることはほとんどありません。

食物依存性運動誘発アナフィラキシーは特殊なタイプで、体力のついてくる学童期以降に症状が出現します。小麦やエビなど特定の食物を摂取した後、運動をすることによりアナフィラキシーが出現します。

口腔アレルギー症候群は多くは幼児期以降に症状が出現します。症状は、主に口の中や喉(のど)のかゆみとして現れます。特に、花粉により感作され、食物により口腔咽頭症状が出現する場合は、花粉-食物アレルギー症候群と呼ばれます。

イラスト

いずれも正しい診断に基づき、「必要最小限の原因食物の除去」を心掛けることが大切です。

1. 海老澤 元宏, 伊藤 浩明, 藤澤 隆夫 監修. 食物アレルギー診療ガイドライン2021.協和企画 2021.

食物アレルギーを治すために 〜副作用の少ない経口免疫療法を目指して〜

下記の図のように、食物アレルギーのお子さんの大半は、小学校入学前までに自然に良くなります。しかし、約1〜2割のお子さんは自然に良くなる可能性は低く、また重症(少しの量でもアレルギーの症状が出てしまう)な程、治り難いと考えられています。

食物アレルギーの年齢分布

食物アレルギーの基本治療は原因食物の必要最小限の除去です。根本的治療として経口免疫療法に期待が集まっていますが、重症なアレルギー反応であるアナフィラキシーを伴うことから標準的治療には至っておりません。

当施設では、より安全に経口免疫療法の実施を目的に、臨床研究として「低用量」の経口免疫療法を実施しております。その前にまず、牛乳経口免疫療法の研究成果を一部紹介致します。

(当施設での牛乳アレルギー児への経口免疫療法への取り組み)イラスト
以前、3〜12歳の重症牛乳アレルギー児(牛乳 10 mL以下で明らかなアレルギー症状が誘発される)を対象に牛乳の経口免疫療法(牛乳100 mLを1年間連日摂取)を実施し有効性を確認できました。
しかし、その一方でアナフィラキシー(重症なアレルギー反応)が少なくなく、安全性に関する課題が残りました。
そこで、安全性を最優先に考えた少量での経口免疫療法(牛乳1 mLを1年間連日摂取)の効果と安全性を検討するための臨床研究を実施しております。ご興味のある方はぜひ外来にてご相談ください。

※より安全な免疫療法として、重症の卵アレルギーのお子さんを対象に、卵の舌下免疫療法にも取り組んでいます。
・食物アレルギーの舌下免疫療法 安全な免疫療法の開発 (参照)

食物アレルギーの舌下免疫療法 安全な免疫療法の開発

食物アレルギーの治療として、原因食物を食べて治そうとする経口免疫療法があります。しかしながら、この治療は効果があることは分かっていますが、アナフィラキシーのリスクが高いためまだ研究段階の治療です。また特に少量の摂取でも症状が出現してしまう場合は実施が困難です。

イラスト舌下免疫療法は舌の下にアレルギー物質を数分置くことを毎日継続することでアレルギーを改善する方法です。アレルギー性鼻炎に対するダニやスギの舌下免疫療法薬は保険診療内で処方でき、一般的な治療となっていますが、食物アレルギーでは舌下免疫療法薬はありません。また食物アレルギーに対する舌下免疫療法は一部の食材(ピーナッツ・ヘーゼルナッツなど)の少数の研究報告にとどまりまだ一般的な方法ではありません。しかしながら、舌下免疫療法のほうが安全性は高いと考えられています。

イラスト

当院では2016年から経口免疫療法が実施できない重症な方を対象に卵の舌下免疫療法
行っています。(舌下保持が可能になる5歳以上が目安)
世界に先駆けて、当院での実施例を2021年に報告しました1)。卵0.1gでアナフィラキシーを起こしてしまっていた患者さん2名に対し、卵0.6-0.7g相当の加熱卵パウダーで舌下免疫療法を7-8カ月間行い、その後同量の経口摂取に切り換え、徐々に増量し卵1gの経口免疫療法に移行できました。(現在、ドーナツなども摂取できています)
まだまだ研究段階ではありますが、その後も検討を重ね、卵の舌下免疫療法を長期に実施した患者さん達に関して、現在、その効果や安全性をまとめています。かなりの手ごたえを感じるところまで進んでいます。卵の舌下免疫療法にご興味のある方はぜひ外来にてご相談ください。

※より安全な免疫療法として、重症の牛乳アレルギーのお子さんを対象に、低用量経口免疫療法にも取り組んでいます。

・食物アレルギーを治すために 〜副作用の少ない経口免疫療法を目指して〜 (参照)

1.N.sagara et al. Successful sublingual immunotherapy for severe egg allergy in children: a case report. Allergy Asthma Clin Immunol. 2021;17:2.

イラスト

食物アレルギーの子供たちを守るための取り組み
  (調布市・狛江市アレルギー対応ホットライン)

現在、当科では周辺地域(調布市、狛江市)と協力し、子どもたちの集団生活の中でのアレルギー症状に対応する取り組みの一つとして、2013年より「アレルギー対応ホットライン」(以下、ホットライン)を運用しています1)。子どもたちの集団生活施設と医療機関の直接の連携としては国内では最初の取り組みであり、現在では当地域をモデルとしていくつかの地域で同様の体制が構築されていています。

ホットラインは月曜日から土曜日の9時〜17時を稼働時間とし、保育園、幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校、学童クラブ等、子どもたちが生活の一部となっている両市内のおよそ250の集団生活施設を対象としています。ホットラインは、緊急搬送の依頼だけではなく、施設で対応に迷う場合にも気軽に小児科医に相談が出来る窓口として位置づけられています。

調布市・狛江市アレルギー対応ホットライン体制図

集団生活施設において、アレルギー症状が出現した際には、まずは市・東京都・文科省等のマニュアルに基づいた対応が行われます。特に、もともと食物アレルギーの分かっているお子さんは、緊急時薬を含め対応手順を事前に確認し、万が一の際にもスムーズに対応出来るように準備をしています。しかし、中には初めてアレルギー症状が現れるお子さんもいらっしゃいます。実際にホットラインには新規に発症したと思われるお子さんの相談が7割くらいあります。新規発症の場合にはマニュアルには記載があまりないため対応に迷う場面も少なくありません。そのような場面でもホットラインを活用され、お子さんが安全に集団生活を送れる一助となればと願っております。

1. 赤司 賢一 他. 小児の集団生活施設におけるアレルギー対応ホットライン. 日本小児科学会雑誌, 120巻5号, P846-851, 2016