虚血性心疾患 (冠動脈疾患)

 虚血とは、その字の通り、血液が足りない状態のことです。つまり、虚血性心疾患とは、心臓に血液が足りなくなる疾患で、狭心症や、心筋梗塞が含まれます。
 心臓はポンプであり、血液で満たされています。しかし、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を与えるのは、心臓の表面を走る、3本の細い血管からなのです。この3本の血管を冠動脈(あるいは冠状動脈)と呼んでいます。冠動脈に動脈硬化などで狭い部位があると、運動時や血圧上昇時に心筋が沢山酸素を必要としても、それに見合った酸素(血液)を運搬できなくなり、症状が出現します。これが狭心症です。狭い部位がなくても、冠動脈がけいれん(攣縮)することにより症状がおきることがあります。これは夜間安静時に多いのが特徴で、冠攣縮性狭心症と呼ばれています。
 冠動脈が突然詰まってしまって、心臓が不可逆的なダメージを負うのが、急性心筋梗塞です。これは、突然起きる場合や、予兆のような症状が出現するときもあります。

虚血性心疾患になりやすい方
男性(女性は閉経後)高齢者
喫煙者
高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、腎機能障害(特に透析患者)

狭心症の症状
胸が痛くなったり、締めつけられたりするのが一般的です。
場所〜
 胸骨(胸の中央の骨)の裏あたりや左胸。漠然とした範囲。
 時に左肩、左腕、あご、歯の痛み
性質〜
 締めつけられる感じ、圧迫される感じ。
持続時間〜
 狭心症では5〜20分。心筋梗塞では30分以上
随伴症状〜
 冷汗、吐気、嘔吐
誘因〜
 労作(歩いたり階段昇ったり)で出現、安静で改善。
 冠攣縮性狭心症では早朝就寝時など安静時に出現。

狭心症の症状が出にくい場合
糖尿病や透析の患者さんは、症状が出にくいこともありますので、注意が必要です。

検査・治療の進め方
狭心症が疑われる患者さんが受診されたときには、まず十分にお話を聞いたのちに、今後の検査方針を決定します。心電図、採血などを行い、状態が落ち着いていれば、冠動脈CT、負荷心筋シンチなどの検査を行います。
 
 心電図はもっとも簡単に行うことのできる検査です。しかし、狭心症は発作時しか変化がないのが一般的です。過去に心筋梗塞を起こしている場合は、その痕が心電図に残ります。
 採血では、心筋からこぼれてくるたんぱく質を測定します。通常心筋細胞一つ一つは膜にかこまれているので、その中にある大きなたんぱく質は血中に出てきません。ところが、心筋梗塞などで細胞が壊れると、細胞の中にあるたんぱく質が大量に血液中に流れ出してきます。特に心筋細胞に多く含まれているたんぱく質を測定することにより心筋梗塞の有無が分かります。そうはいっても、一定期間で血中から消失しますので、発症早期にのみ役立ちます。また、狭心症では、心筋ダメージは小さく、採血では異常は認めません。
 冠動脈CTは、静脈から造影剤を注射し、冠動脈の内腔をみる検査ですが、CTの時間分解能、画像分解能、撮像法の進歩により、冠動脈造影と遜色なく、冠動脈の評価がおこなえるようになってきました。ただし、冠動脈にカルシウムの沈着があると、評価が難しい場合があります。
 負荷心筋シンチは、静脈から放射性同位体を注射して、心筋に取り込ませ、心筋から出る微弱な放射能(もちろん人体に害はない量の)を検出する検査です。薬剤負荷時と安静時との比較を行います。負荷時のみ取り込みが悪くなる場合は、狭心症が考えられ、負荷時も安静時も取り込みがない場合は、心筋梗塞による不可逆的なダメージが考えられます。
 これらの検査で異常が認められたら、心臓カテーテル検査(冠動脈造影)を行います。ただし、やみくもに心臓カテーテル検査を行うわけではなく、病変が末梢(血管の先の方)や、分枝であることがわかっている場合には、そのまま薬物治療を行います。また、病歴から、狭心症が強く疑われた場合には、冠動脈CTや負荷心筋シンチなしに心臓カテーテル検査を行う場合もあります。

緊急治療
急性心筋梗塞の患者さんには、詰まってしまった冠動脈をいかに早く開通させるかが重要です。すなわち、詰まってしまった冠動脈により酸素や栄養が供給される部位が壊死する前に、血液を流してやること(再灌流)が大切です。当院では、救急部、放射線部、看護部と連携して、患者さんが来院してから90分以内に心臓カテーテルで再灌流する体制を24時間作っています。