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青戸病院医療事故報告



青戸病院医療事故のお詫び


平成15年12月26日 青戸病院医療事故についての記者会見
理事長発言

 学校法人・慈恵大学・理事長の栗原 敏です。本日は宜しくお願い申し上げます。私は今年の8月1日に前任の岡村哲夫理事長の退任を受け、学校法人慈恵大学理事長に就任いたしました。
昨年、11月8日、本学附属青戸病院で、腹腔鏡下前立腺摘出術を受けられた60歳の男性患者さまが、手術中の事故により、その後、意識を回復することなく、12月8日に亡くなられました。
 大学として、亡くなられた患者さまと、ご遺族に対して心より深くお詫び申し上げます。また,医療に対する信頼を損ね、混乱を招いたことに対して、国民の皆様に深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ありませんでした。
 大学ではこの医療事故の原因を解明し、再発防止策を講じるために、大学事故調査委員会を設置し、事実の確認を行うことにしました。大学事故調査委員会の調査結果を今月、医療安全管理外部委員会に報告いたしました。現在、医療安全管理外部委員会で、その調査報告を一つの資料として、更なる調査項目や問題点の洗い出しをして頂いております。医療安全管理外部委員会は、日本法医学会、日本病院管理学会、日本内視鏡外科学会、日本Endourology・ESWL学会、日本麻酔科学会、日本泌尿器科学会からの推薦委員と弁護士、報道関係者の委員から構成されています。今後、医療安全管理外部委員会からは再発防止策のご提言を頂くだけでなく、改善の具体的実施の検証も行って頂くことになっております。

 本日は、大学事故調査委員会が学内調査の内容を学内で報告したこと、監督官庁に医療事故経過報告書を提出したこと、また、昨日の夕方の理事会でこの事件の関係者の処分を決め、本日の朝、大学として発表したことを受け、これらのことを一つの節目と考えて、この事故に対する大学の態度と、この事故が発生してから、今日に至るまでの経過、および大学の今後の対応についてご説明申し上げます。
 これから、大学事故調査委員会からの報告の概要をご説明いたします。
大学事故調査委員会は3名の医師たちが起訴された後に発足し、短期間のうちに調査を行い、医療安全管理外部委員会へ報告いたしました。この報告は、(1)昨年11月8日の手術室での経過、(2)どのような経緯で手術が行われるに至ったか、(3)患者さまとそのご家族に対する医師団、病院、大学の対応についてから構成されています。

 (1)この手術が行われた経緯についてご説明いたします。
患者さまは60歳の男性で、前立腺癌と診断されました。まず、手術に先立ち、患者さまに対して本手術の手術同意に必要な重要事項について、適切な情報提供がなされていなかったという調査結果がまとめられています。また、この手術が難易度の高い高度先進医療であることについての説明は、極めて不適切であることも示されております。
 この腹腔鏡下前立腺摘出術を行うことを誰が決定したかについては、大西泌尿器科診療部長が、最終的に3人で行ってよい事を認めたことが明らかになっております。
 この手術を行うには、学内の倫理委員会の承認を得ることが必要とされていますが、大西診療部長と当該医師たちは十分な認識がなく、学内規定が遵守されず、この手術が施行されてしまいました。

 (2)昨年11月8日の手術室での経過についてご説明します。
この患者さまは、昨年11月8日午前8時15分、手術室に入室されました。手術は術者として斑目医師、第1助手として前田医師、第2助手として長谷川医師というチームで始まりましたが、当該医師らはこの手術に関する経験に乏しく、この手術に必要とされる技術は未熟で、その時々術者も交代して行われ、手術に手間取り、じわじわとした静脈からの出血が持続することになりました。
 術者の斑目医師は16時頃と18時に、手術に時間がかかっていることを理由に開腹手術に切り替えることを提案しましたが、長谷川医師は続行を主張し、手術は続きました。その後、19時15分頃、前立腺が摘出されました。20時に斑目医師は再度、開腹手術への切り替えを促しましたが、ここでも手術は続行され、その後、麻酔科医の強い要請もあり21時頃に開腹手術に変更されましたが、その間の出血、及び22時以降の輸血が必ずしも適切に行われなかったことによって、患者さまは脳死状態となり、1か月後にお亡くなりになりました。

 (3)次に、患者さまとそのご家族に対する、医師団、病院、大学の対応についてご説明いたします。
 手術後、当該医師はご家族から血圧が急激に低下した原因、意識が下がった原因などを尋ねられていますが、ご家族に納得していただける内容の回答にはなっていなかったと考えられます。ご家族に対して、11月12日に、落合病院長、副院長、事務部長が説明にあたりましたが、ご理解を得られるような回答でなく、ご家族は担当医の誠意ある対応を求めました。青戸病院内に青戸病院事故調査委員会が設置され、12月6日にこの委員会の報告書が提出されました。しかし、ご家族は報告書の内容に疑問をもたれ、質問状を提出されました。12月27日には、病院代表とご遺族との間で面談が行われました。その時の説明内容を加味して、平成15年2月1日に再び報告書がご遺族に提出されました。しかし、報告書の内容は、ご遺族には難解なものとなっていること、この事故の原因が何処にあるかが明らかにされていないことから、ご遺族にご納得いただけるような内容となっておりませんでした。今回の大学事故調査委員会の報告では、これら2つの報告書について、「ご遺族が不満を持たれても、また医療についての大きな不信感を抱かれても仕方のない報告、説明である」と結論づけています。医療事故の検証には当初から中立的な立場の外部の方の助力を求めるべきであったと考えております。

 以上のように、この医療事故には手術についても、事故後の病院の対応にもさまざまな問題点がありました。 まず、術前に患者さまとそのご家族に対して、この手術が難易度の高い手術で高度先進医療に分類されるものであること、術者のこの手術に関する経験が乏しいことなどを十分にご説明していなかったことが問題であります。また、高度先進医療を行うための学内手続きを踏んでいないことも問題であり、診療部長が十分にこの手術の難易度などを理解せずに手術を許可し、当日不在であったことも重大な問題であります。
 手術に直接かかわった当該医師たちは、この難易度の高い手術を行うための経験が不十分であり、手術を行うにあたっては指導者のいるところで手術を実施すべきでありました。そのため、止血に時間がかかり、出血が持続し、開腹手術に切り替える時期が遅れ、また、輸血の時期が適切でなかったことによって患者さまの病態は悪化し、その後、脳死に至ったと考えられます。
 また、病院内での手術をバックアップする院内体制が十分に機能しなかったことも輸血の遅れを引き起こした原因の一つと考えられます。
 術後は、患者さまのご家族対して、十分、ご理解いただける分かりやすい説明をしていなかったこと、また、亡くなられてから提出された調査報告書も、ご遺族に対して誠意あるものでなかったと私は強く感じます。
 このような経過によって、尊い患者さまの命が失われましたことに対して深くお詫び申し上げます。
今後の大学の対応についてご説明いたします。

 このような大学事故調査委員会からの調査結果が、学外の委員から構成される医療安全管理外部委員会に提出され、外部委員会はこの調査報告を、一つの資料として、この医療事故の問題点の洗い出し、再発防止策の提言、改善の具体的実施の検証が行われことになっています。大学は外部委員会からの提言に従い、医療安全の具体的な改善策を講じてまいります。
 外部委員会は、これまで3回開催され、来年、2月頃に中間の答申を頂けることになっております。外部委員会からの提言を待つだけでなく、この事故を振り返り、事故を二度と繰り返さないための改善を進めております。今までに行ってまいりました改善策の概要を資料として配布いたします。
 大学は改めてご遺族に謝罪の意を表明し、今後、誠意をもって対応してまいります。また、医師の資質と倫理観の向上、医療の安全管理意識を高める教育をより充実させ、このような事故の再発防止策を、全学を挙げて講じてまいります。

 次に、この医療事故の関係者の処分を発表いたします。懲戒委員会では、大学事故調査委員会からの報告だけでなく、懲戒委員会が独自に行った調査をもとに関係者の処分を決めました(平成15年12月31日付)。  懲戒処分。大西哲郎、泌尿器科、懲戒解雇。斑目 旬、泌尿器科、懲戒解雇。長谷川太郎、泌尿器科、懲戒解雇。前田重孝、泌尿器科、出勤停止10日間。尾崎雅美、麻酔科、譴責。
 自主的給与返上。岡村哲夫、前理事長、給与30%、3か月。栗原 敏、理事長・学長、給与20%、3か月。小森 亮、専務理事、給与20%、3か月。松井道彦、専務理事、給与20%、3か月。高木敬三、専務理事、給与20%、3か月。大石幸彦、附属病院長、給与20%、3か月。落合和彦、前青戸病院長、給与20%、3か月。
厳重注意。関係者。

 自主的辞任。落合和彦、青戸病院長辞任、平成15年11月15日。大石幸彦、附属病院泌尿器科診療部長辞任、平成15年11月30日。大石幸彦、附属病院長辞任、平成15年12月31日。松井道彦、専務理事辞任、平成15年12月31日。
 私は、医療安全に配慮して最善の医療を提供しなくてはならない管理責任者としての責任を痛感しております。この医療事故で亡くなられた患者さまに対し誠に申し訳ない、というお詫びの気持ちで一杯です。また、この事故によってご家族の一員を失われたご遺族のお悲しみは計り知れないものがあります。医療人の育成と医療安全の改善・充実に全力をあげて取り組むことが、亡くなられた患者さまとご遺族に対する償いと考えております。改めて、患者さまとご遺族にお詫び申し上げます。


安全管理体制の改善並びに検討事項

1. 院長を中心とした診療責任体制の明確化
 ・院長権限の明確化
 ・診療部長の権限強化、責任の明確化

2. 手術室の安全管理体制の強化
(1)輸血に関する安全管理体制
 ・輸血の安定供給、緊急時の対応
 ・4病院への輸血部の設置を検討
(2)手術に関する安全管理対策 
 ・手術同意書、麻酔同意書の改定
 ・麻酔科責任者による安全管理体制の強化
 ・難易度、高度な手術の事前申告・審査 
 ・手術室の看護記録、出血量カウント方法の改善 
 ・院長による手術内容の監査

3. 安全管理体制の見直し
(1)安全管理教育の徹底
  安全管理講習会、倫理教育ワークショップへの参加義務化
(2)各附属病院への医療安全管理室の設置と権限強化、専門家の育成
(3)インシデント報告書の改定
(4)説明書、同意書の整備と周知徹底
(5)診療録に関する安全管理対策(診療録の監査機構の確立等)
(6)監査機構の検討

4. 高度或いは特殊な医療の審査・許可制度の見直し
 ・審査体制の見直し
 ・諸規程の改定
 ・審査・許可制度の周知徹底

5. 教員評価と人事制度の見直し
 ・医師人事評価制度の見直し
 ・教員並びに医師の昇格人事基準の明確化

6. 学生への医学倫理、リスクマネジメント教育の実践

以 上


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