| (1) この取組を実施に至った動機や背景 |
| |
医学・看護学教育(医学教育)は従来、その教育を大学と大学附属病院(特定機能病院)で行ってきた。学生は臨床実習(5年生、6年生)で「患者さん」から医療の基本を学ぶ。大学附属病院だけで医学教育を行うことは、大学病院に来る患者さんしか診ないということになる。では、大学附属病院にはどのような患者さんが来るのであろうか?医療の高度化に伴い、大学附属病院は特定機能病院として高度先進医療を実践する場である。
従って、大学附属病院には他の医療機関からの紹介患者さんが来る(本学の外来初診の約50%が紹介患者)。そして本学附属病院の平均在院日数は14日間である。大学附属病院には、診断がほぼ確定した患者さんが、自らの生活から離れて、短期集中治療という高度医療を受けに来ている。疾患としても治療可能な急性期疾患が主になる。従って、大学附属病院には治療法がない慢性疾患で、その病気を持ち続けながら地域で生活しなければならない患者さんは極めて少ない。すなわち、学生は「その人の生活を支援する医療」には触れることは殆どない。大学附属病院という極めて特殊な環境だけで医学教育は完遂できるのだろうか?本学はこの問に、医学教育は地域との連携を取って進めるべきものと考え、Community-based Medical Education を導入した。大学附属病院だけではなく、地域の診療所、訪問看護ステーション、地域中核病院での臨床経験をカリキュラムとして確保してきた。本学は、昭和61年度に「家庭医実習」をわが国で初めて医学教育カリキュラムに導入した。選択1単位であった家庭医実習は平成16年度に必修1単位となった。また、本学は、平成8年度からのカリキュラム改革で、地域授産更生施設での「福祉体験実習」(1年次)、地域病院・医療施設での「重度心身障害・難病医療体験実習」(2年次)、地域訪問看護ステーションでの「在宅ケア実習」(3年次)、地域中核病院での選択実習(6年次)を順次医学科カリキュラムに導入してきた。また、看護学科カリキュラムでは平成14年度のカリキュラム改革で、地域保育園での「コミュニティーヘルスケア実習」(1年次)、地域老人病院での「老年期ヘルスケア実習」(2年次、3年次)、地域保育施設での「小児期ヘルスケア実習」(3年次)、地域の訪問看護ステーションでの「在宅ケア実習」(3年次、4年次)などの地域医療実習を実施している。 |
 |
| (2) 地域での実習のカリキュラム上の位置づけ |
| |
地域に学生を送り出す科目は学年順次性を考えて、正規の単位取得科目として配置してある。医学科の「福祉体験実習」(1年次:必修1単位)、「重度心身障害・難病医療体験実習」(2年次:選択1単位)、「在宅ケア実習」(3年次:必修1単位)、「家庭医実習」(5年次:必修1単位)、「選択実習」(6年次:必修15単位)は6年一貫医学教育カリキュラムのなかで一つの柱として組まれており、本学のカリキュラムの重要要素となっている。看護学科でも同様に1年次から4年次にかけての柱として地域での実習が必修科目として配置され、大学附属病院での臨床実習との連携が考慮されている:「コミュニティーヘルスケア実習」(1年次:必修2単位)、「老年期ヘルスケア実習」(2年次、3年次:必修4単位)、「小児期ヘルスケア実習」(3年次:必修1単位)、「在宅ケア実習」(3年次、4年次:必修2単位)。これらの必修単位取得は進級要件となっている。 |
 |
| (3) 取組実施のプロセス |
| |
昭和61年度に医学科「家庭医実習」が、当時の学長(阿部正和)の強いリーダーシップのもと選択科目として導入された。しかしながら、当時の臨床実習カリキュラムは内科、外科、小児科、産婦人科、精神科など多くの講座が講座単位で実習時間を分けていたので臨床実習中に正規の必修単位として「家庭医実習」を組み込むことができなかった。そのため、実習は夏休みなどを利用する時間外の選択科目とされた。医学科では平成8年度に大幅なカリキュラム改革を行った。医学科カリキュラムに低学年からの地域医療実習の導入を行い、臨床実習前教育で積極的に学生を地域に出すシステムを確立し、その流れの中で、「家庭医実習」は平成16年度から臨床実習中の正規の教育ユニットとして必修化された。看護学科は平成4年度に医学部看護学科として新設され、平成14年度からカリキュラム改革を行い、低学年からの順次性のある地域医療実習が体系化された。 |
 |
| (4)
取組実施での問題点と解決策 |
| |
地域医療実習で最も困難な点は学生を受け入れる実習施設の確保である。医学科が地域医療実習、特に、地域の授産更生施設や訪問看護ステーションの実習先確保に困難を極めている時に、看護学科教員の支援を得て、実習先を確保していった。
学生を地域に出すと、その教育は実習先に任せてしまう傾向がある。本学では地域医療実習の科目責任者が実習先との連携を取ることでこの難点を克服していった。学生の実習態度等の調査を書面だけでなく、実習先を訪れてオンサイト・インタビューを行っている。この対話が実習の遂行を円滑にしただけでなく、実習指導者が大学に何を望んでいるかのニーズ調査にもなった。実習指導者は、大学に教育技法だけでなく、日常臨床での最新知識や診療技能の継続学習の機会を求めていることが分かった。大学は学生を地域の教育力で育ててもらい、一方で、大学は地域医療者へ大学が持つ智を還元していくという双方向の連携こそが、地域での学生実習の実をあげる道であると考えている。現在、本学では大学が主催する公開講座、学内医学教育セミナーを実習指導者にも提供している。この取組では、地域医療実習指導者に教育法に関するFaculty Development(FD)を提供し、地域の教育力を育成し、さらに本学がもつ教育資源(スキルス・ラボ、e-Learning教材)などを地域医療実習指導者に生涯学習コースとして提供しようとするものである。 |