Critical readingのすすめ −Correspondenceの活用−

Critical readingのすすめ
−Correspondenceの活用−
附属病院 輸血・細胞治療部
准教授 佐藤 智彦

輸血・細胞治療部 佐藤 准教授

皆さんはじめまして、2019年4月より附属病院 輸血・細胞治療部に赴任しました。この10月に、同部から2つのcorrespondence(書簡)がNew England Journal of Medicine誌(以下、NEJM誌)に掲載されました1,2)。皆さんはご自身の専門領域や関連領域の原著論文(original article)に目を通すと思いますが、correspondenceはそれに対する読者投稿(letter to the editor)に相当します。ここでは、私たちのケースを題材に、特に若手の先生向けに、ご自身の専門領域のcritical reading技術を高める練習としてのcorrespondenceの活用法をご紹介したいと思います。

Review article(総説論文)へのcorrespondence

まずは、溶血性輸血副作用に関する総説3)を読みました。血液製剤の安全性が格段に高まった現在でも、輸血による死亡はゼロではありません。致死的な溶血性副作用の代表格が「ABO血液型不適合」で、患者と血液製剤の照合ミスなど「人為的なミス」が主たる要因です。溶血性副作用の多くは赤血球(RBC)輸血で生じますが、血小板(PC)輸血での報告もあります(図1参照:赤血球輸血による血管内溶血)。この総説に「追加すべき点」として私が注目したのは、「血小板輸血でのABO血液型適合」に関する国内外での違いです。PCを選択する場合、日本ではABO血液型を合わせますが、欧米では合わせません(PC製剤へのRBC混入が極めて少ないため)。しかし、日本でも例外があります。それが「HLA適合血小板」です。妊娠歴や輸血歴のある患者では白血球抗原(HLA)に対する抗体を持つ者もいて、これが血小板減少の原因となっている場合には、HLA適合PCの適応になります。HLA型を合わせることは移植領域(造血幹細胞でも臓器でも)で重要ですが、HLA適合PC輸血においても需要に対して供給が極端に少ないことが大きな問題点です。

そこで、私たちは日本赤十字社に国内での溶血性副作用報告数を問い合わせました。そして、HLA型適合を優先させたABO血液型不適合PC輸血は国内でのHLA適合PC投与例の約3割に行われており、2010〜2018年のHLA適合PC輸血による溶血性副作用4件全てがABO血液型不適合であったとわかりました(HLA適合PC輸血47,800件に1件の溶血性副作用の発症:約0.0021%)。

以上から、赤血球輸血だけでなく血小板輸血でもABO血液型を合わせることが、まれにしか起きなくても「防げる(preventable)」輸血副作用には重要だという主張が私たちの1つ目のcorrespondenceのポイント1)です。比較研究をするにあたり、こういった「自然発生的な比較」が重要な知見になりうると言えます。

Original article(原著論文)へのcorrespondence

次は、TRACT (Transfusion and Treatment of Severe Anemia in African Children Trial)という、重症貧血小児(ヘモグロビン(Hb)が6 g/dL以下の2カ月齢〜12歳までの小児)に対する赤血球輸血のタイミングと量に関する、アフリカのウガンダとマラウィでのランダム化比較試験4,5)です。輸血のタイミングを比較するために、1,565名が「すぐに輸血する群」と「新たな貧血症状の出現かHb 4 g/dL以下の場合に輸血する群」に分けられましたが、両群で死亡率やその後の臨床経過に目立った差はありませんでした4)。また、輸血量を比較するために、3,196名が20 ml/kg輸血群(世界保健機関WHOの推奨量)と30 ml/kg輸血群に分けられましたが、両群で死亡率に差はありませんでした5)。しかし、発熱のない1,943名では30 ml/kg輸血群の死亡率が低かったのに対して、発熱のある1,253名では、30 ml/kg輸血群の死亡率が高い結果でした5)

そこで私たちは、発熱の有無で輸血量と死亡率の関係が逆転している原因として、マラリア治療の関連に着目しました。この研究では、マラリア感染陽性者は抗マラリア薬による治療を受けましたが、マラリア感染陰性者は発熱の有無によらず特異的な感染症治療を受けていなかったので、両群でのマラリア治療の奏効率に違いがあるかもしれないと考えました。つまり、何らかの感染症により発熱と貧血を生じている患者には、輸血量を増やすこと(30 ml/kgの輸血)よりも原疾患の治療が優先されるべきだということが2つ目のcorrespondenceでの主張2)です。さらに、こういった種々の感染症が蔓延する地域では、病原体不活化技術(輸血感染症を低減する)、献血ドナー登録システム(近親者からの献血に頼らない)、マラリアの高感度スクリーニング(漏れなく感染者を拾い上げる)が役立つ可能性についても言及しました2)。ここからは、原著論文へのcorrespondenceでは、研究データへのcriticismを示していくことが重要だと言えます。なお、図2に示すように、赤血球輸血では心疾患患者を除き、Hb 7〜8 g/dLをトリガーとする制限輸血(restrictive transfusion)が主流になっています。

たくさん読んで積極的なチャレンジを!

こういったチャレンジを重ねることは専門領域のアップデートになるだけでなく、自分たちのモチベーションを高めることにもつながります(論文採択はやはりうれしい!)。Correspondenceを書くこと自体は、論文の査読と似た点があり、critical readingがその根底にあります。興味を持たれた方は、ぜひ本文をお読みください。個人的には、1つのcorrespondenceを書くにあたり、10〜20の関連文献に当たれば相応のものが書ける印象を持っています。NEJM誌の場合、175 words以内のコメントを論文掲載後3週間以内に投稿することが条件になっています。各学術誌で条件が異なりますが、興味のある論文を早めに読んで、どんどん関連文献に当たっていくといいのではないかと思います。研究やcorrespondenceの書き方など、特に若手の先生方からのご相談もお待ちしています。ぜひ輸血・細胞治療部に足をお運びください(2020年1月から新外来棟2階におります)。

参考文献

  1. Sato T et al. Hemolytic Transfusion Reactions. N Engl J Med 2019; 381: 1396-7.
  2. Sato T et al. Transfusion Timing and Volume in African Children with Severe Anemia. N Engl J Med 2019; 381: 1686-88.
  3. Panch SR et al. Hemolytic transfusion reactions. N Engl J Med 2019; 381: 150-62.
  4. Maitland K et al. Immediate transfusion in African children with uncomplicated severe anemia. N Engl J Med 2019; 381: 407-419.
  5. Maitland K et al. Transfusion volume for children with severe anemia in Africa. N Engl J Med 2019; 381: 420-431.

図1:赤血球輸血による血管内溶血のメカニズム
Panch SR et al. N Engl J Med 2019より

赤血球輸血による血管内溶血のメカニズム

図2:赤血球輸血に関するChoosing Wiselyキャンペーン
https://www.choosingwisely.org/societies/american-society-of-hematology/

赤血球輸血に関するChoosing Wiselyキャンペーン