概念: |
日頃私達が歩いたり様々な作業や運動を支障なく行う際には、大脳基底核とよばれる脳の深部に位置する細胞群が重要な役割を果たしています。この大脳基底核へ指令を伝える伝達物質にドーパミンという物質があります。パーキンソン病では、このドーパミンを産生する中脳と呼ばれる部位の神経細胞が何らかの原因で障害され脱落する結果、脳内がドーパミン不足となり、手足の振えや動作の遅さ、筋のこわばりなど様々な症状が現れるものです。
一方、パーキンソン症候群はパーキンソン病でみられる症状を示す疾患群の総称で、広義にはパーキンソン病を含みますが、狭義にはパーキンソン病以外の原因でパーキンソン病類似の症状を示す疾患群をさします。具体的には、脳血管障害に伴うもの(脳血管性パーキンソン症候群)、抗精神病薬など薬剤に関連するもの(薬剤性パーキンソン症候群)、あとに出てくる多系統萎縮症でパーキンソン症状が前面に出ているものなど、様々な原因の疾患を含みます。
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症状: |
パーキンソン病では、手足の振え(振戦)、動作の遅さや身体の動きの低下(動作緩慢、無動)、筋が硬くなりこわばって脱力できない(筋強剛または筋固縮)、歩行障害がみられます。とくに歩行は、前かがみの姿勢で歩幅が狭くなり腕を振らなくなります。歩行が速すぎたりバランスを崩したりすると、下肢の踏み出しが上半身に追いつかず、止まらずに突進してしまいます(突進現象)。また、歩き始めに下肢が前に出ず同じ位置で足踏みをしてしまうという症状(すくみ足)もみられます。これらの症状は同一の患者さんに全て現れるのではなく、人によっていくつかの組み合わせで症状が現れます。
一部の患者さんでは、パーキンソン病の経過中に認知症を合併することもあります。
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診断: |
問診で手足の振えや動作の遅さ、歩行障害の訴えをみた場合、神経学的診察でパーキンソン症状を確認します。次に、病気がパーキンソン病なのか、他の原因によるパーキンソン症候群なのかを鑑別するために、頭部MRIを含む精査を行います。最近は、MIBG心筋シンチグラフィーという心臓交感神経の機能を反映するアイソトープ検査で、パーキンソン病では早くから異常の現れることが判明し、他の疾患との鑑別に用いられています。
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治療: |
パーキンソン病の治療の主体は、薬物療法です。現在、ドーパミン不足を補うL−ドーパ製剤、脳内のドーパミン受容体に働きかけるドーパミン受容体作動薬、ドーパミンの分解を妨げ脳内の濃度を上げる塩酸セレギリンなど多くの種類の良い薬が出ています。
当科では、患者さんの年齢、症状に合わせてこれらの薬物を単独、または組み合わせて治療を行っています。長い経過の中で、薬が効かなくなってきた、あるいは服用してもすぐに切れてしまう、といった症状がある場合、入院の上薬物を組みなおすこともあります。
この他、当院では実施しておりませんが、手術療法として脳深部電気刺激療法があります。本治療法は、パーキンソン病を手術で完治させるものではなく、あくまで薬物療法と組み合わせて症状をコントロールするものです。
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