赤外線

診療医長 高橋直人
胃がんで胃を全部とるといわれた人に朗報があります。それを可能にするのが「センチネルリンパ節生検」で、慈恵医大柏病院では特殊な「赤外線腹腔(ふくくう)鏡を用いて実施しています。「センチネルリンパ節生検」」で転移がないとわかれば、手術で切除する胃の範囲、を小さくでき、後遺症を軽減できる利点があります。 胃がんで手術する目的は、"がん"という病気を治すことが、第一目的ですが、胃を失うことで色々な後遺症が出現します。それを胃切除後障害といいます。手術する前のように食事量が摂取できない、早く食べると気分が悪くなり冷や汗をかく、下痢が多くなり外出を控える様になった、体重減少により服が合わなくなった、貧血が出現した、骨粗しょう症になった、などなどです。
早期胃がんのリンパ節転移は最大でも15%程度です。すなわち85%位の人にはリンパ節転移はありません。しかしながら、現状のCT検査などではそのリンパ節転移を術前に正確に診断することはいまだ不可能なため、予防的に広めにリンパ節と胃を切除して根治性を高めています。リンパ節転移がない患者さんの場合、胃がんを治すことができても、術後障害には目をつぶる状況でした。
そこで、われわれが着目したのは、乳がん、悪性黒色腫治療に導入されている、「センチネルリンパ節生検」です。「センチネルリンパ節」という「見張り番リンパ節」を採取して顕微鏡で調べ、転移がなければ、その先のリンパ節にも転移がないと判断します。このようにリンパ節転移の有無を組織学的に術中診断して、胃の切除範囲を縮小する方法が「センチネルリンパ節ナビゲーション手術」です。
慈恵医大柏病院の特色として、センチネルリンパ節を見つける際に、「インドシアニングリーン(ICG)」という緑色の色素と赤外線腹腔鏡を用いることがあります。通常のリンパ節生検では色素と放射線同位元素(アイソトープ)を使用しますが、手間がかかり、被曝(ひばく)の問題があるため、われわれは放射線同位元素を使用しません。ICGには赤外線を吸収する性質があるので、ICGが存在する部位と、しない部位を赤外線腹腔鏡で観察すると明瞭に区別することができ、ICGを取り込んだリンパ管やリンパ節が簡単に同定できます(図参照)。
対象は、大きさが4センチ以下で、画像検査でリンパ節転移が見られない早期がんです。センチネルリンパ節に転移が無く、胃の切除範囲を縮小した約50名の患者さんに、再発はなく、体重減少も胃全摘の患者さんに比べ抑えることができています。
赤外線腹腔鏡を使用した「センチネルリンパ節ナビゲーション手術」は、患者さんの被曝がなく、転移がない症例では胃の容量を温存でき、胃術後障害を回避できる術式です。われわれは、患者さん、近隣医師、東葛地域の皆様に認知してもらい、胃術後後遺症で苦しむ患者さんを救えればと考えています。

胃がんにおける腹腔鏡下赤外線SN同定

腹腔鏡下による手術