対談教授vs学生学生が聞く! 研究者のホンネ 対談教授vs学生学生が聞く! 研究者のホンネ
伴野

私立大学研究ブランディング事業「働く人の疲労とストレスに対するレジリエンスを強化するEvidence-based Methodsの開発」は、「病気を診ずして 病人を診よ」という建学の精神をブランド化するものとして位置付けられています。
今回ご紹介するのは、社会医学系の疫学、予防医学、公衆衛生学を研究する須賀万智さんです。本学の環境保健医学講座の担当教授を務めると共に、さまざまな領域の臨床医とチームを組んで病気の原因の究明やよりよい医療の実現につながる研究に取り組んでいます。

紆余曲折を経て
疫学に出会った

伴野

―なぜ研究医の道に進んだのでしょうか。

須賀

大学を卒業したときは、内科医として診療に当たりながら研究も行えるドクターになれたらよいなあと考えていました。研究医になろうというはっきりとした意志を持っていたわけではありません。ただ、学生の頃から基礎医学の実験はおもしろいと感じていました。特に生化学には興味がありましたし、薬理学教室で実験の一端をかじらせていただいたこともあるのですが、やりたいことは漠然としていたんです。

教授×学生 対談
教授×学生 対談

伴野

―生化学と公衆衛生学はイメージが違いますが、どうして社会医学系の世界に入っていったのでしょうか。

須賀

私の場合、最初に描いた夢の通りにならないことばかりでした。
初期臨床研修はどうにか修了しましたが、臨床医として働くのは向いていないと感じました。じゃあどうしようかと考えたときに、もうひとつの夢であった研究をやってみようと、大学院への進学を決めました。
生化学教室での実験研究は楽しかったです。ただ、2年経ち、研究がひとつまとまったところで、体力的な問題もあって、このまま実験の道を歩み続けるのは厳しいと感じるようになりました。具体的にどうすれば良いのかわからずに悩んでいたときに、当時、研究を指導してくださっていた松藤千弥先生が「疫学っていうのもあるけれど、どうかな」と提案してくださったんです。

伴野

―生化学と公衆衛生学はイメージが違いますが、どうして社会医学系の世界に入っていったのでしょうか。

須賀

私の場合、最初に描いた夢の通りにならないことばかりでした。
初期臨床研修はどうにか修了しましたが、臨床医として働くのは向いていないと感じました。じゃあどうしようかと考えたときに、もうひとつの夢であった研究をやってみようと、大学院への進学を決めました。
生化学教室での実験研究は楽しかったです。ただ、2年経ち、研究がひとつまとまったところで、体力的な問題もあって、このまま実験の道を歩み続けるのは厳しいと感じるようになりました。具体的にどうすれば良いのかわからずに悩んでいたときに、当時、研究を指導してくださっていた松藤千弥先生が「疫学っていうのもあるけれど、どうかな」と提案してくださったんです。

教授×学生 対談

須賀

この一言がきっかけで疫学の世界に入ることになるのですが、当時、疫学を専門とする先生が学内におらず、どなたにご指導いただけばよいのかわかりませんでした。
そんなときに図書館で見つけたのがHealth Risk Appraisal(健康危険度予測)でした。検査データからその人の将来の健康リスクを予測するというもので、「これはおもしろそう!」と単純に思いました。早速、この研究を進めておられた聖マリアンナ医科大学の吉田勝美先生に紹介いただき、そこで疫学を一から学ぶことになりました。初期臨床研修、大学院を経て、ようやく自分にとってハマったと思えるものを見つけることができたんです。

教授×学生 対談

悩んでいた時、恩師にもらったアドバイスが、疫学の世界に入るきっかけになりました。

須賀万智教授
須賀万智教授

悩んでいた時、恩師にもらったアドバイスが、疫学の世界に入るきっかけになりました。

多くの人の健康を
底上げできる

教授×学生 対談

伴野

―疫学とか予防医学にハマったポイントはどこだったのでしょうか。
どんなところにやりがいを感じているのでしょうか。

須賀

日常を元気に暮らす人たちをより健康に導くことができて、将来の病気の予防につなげられるというのが私には魅力でした。集団全体の健康を底上げする研究なので対象者が多いことがやり甲斐になりますし、集団全体の健康リスクが下がれば病気になる人の数を減らすことができます。

須賀

疫学は特定の領域のテーマに限定されないというところも私には魅力でした。対象者からデータを収集して分析してエビデンスを作っていくという疫学の手法は、実験系以外、どんなテーマでも扱うことができます。私自身、特定の疾患や特定の臓器に興味があるわけでなかったので、内科でも外科でも小児科でも産婦人科でも、あらゆる領域のあらゆる問題に応用できる疫学という学問が私にはハマったんだと思います。

教授×学生 対談
教授×学生 対談

伴野

―私自身ももともと疫学とか予防医学に興味がありました。川に例えると、臨床医の人は下流で溺れた人を助け、疫学は上流で溺れないようにするというアプローチだと感じていました。

須賀

目の前の患者さんを助けたいからという想いから医学部を目指す人が多い中で、初めから予防医学志向というのは珍しいですね。

伴野

―中高でずっと部活をやっていたのですが、高校生の時に靭帯を切ってしまって1年くらい運動ができなくなった時期がありました。その時にそもそも予防ができていたら、運動できない期間を短くできたのにと考えるようになったんです。

伴野

―私自身ももともと疫学とか予防医学に興味がありました。川に例えると、臨床医の人は下流で溺れた人を助け、疫学は上流で溺れないようにするというアプローチだと感じていました。

須賀

目の前の患者さんを助けたいからという想いから医学部を目指す人が多い中で、初めから予防医学志向というのは珍しいですね。

教授×学生 対談

須賀

疫学と実験ではアプローチが異なります。実験は未知のものを発見することが目的なので、最初の時点でゴールが見えません。一方、疫学は明らかにしたい課題があって、そこから研究がスタートします。ある意味、ゴールから遡っていく感じです。つまり最初から着地点が見えているんです。
私が実験系に向かないと感じたのは、全然わからないものを手探りで探していくよりも、患者さんのためにこの問題を明らかにしようというアプローチの方が合っていたからかもしれません。

教授×学生 対談

伴野

―中高でずっと部活をやっていたのですが、高校生の時に靭帯を切ってしまって1年くらい運動ができなくなった時期がありました。その時にそもそも予防ができていたら、運動できない期間を短くできたのにと考えるようになったんです。

須賀

疫学と実験ではアプローチが異なります。実験は未知のものを発見することが目的なので、最初の時点でゴールが見えません。一方、疫学は明らかにしたい課題があって、そこから研究がスタートします。ある意味、ゴールから遡っていく感じです。つまり最初から着地点が見えているんです。
私が実験系に向かないと感じたのは、全然わからないものを手探りで探していくよりも、患者さんのためにこの問題を明らかにしようというアプローチの方が合っていたからかもしれません。

教授×学生 対談
伴野

松藤先生が疫学の道を勧めたのもそれがわかっていたからでしょうか。

教授×学生 対談

須賀

見抜かれていたかもしれませんね。私はどんなことも根を詰めてやるタイプで、休日も休まず実験を進めていました。今はすっかり元気ですが、当時、体力的に問題がある中で未知のものを探究しつづけなければならない実験の研究は、私にとっては負担だったのだろうと思います。

統計よりも重要な
研究を設計する力

伴野

―数式など数学や統計の知識は疫学に進んでから身につけたのでしょうか。そこがハードルになって疫学を敬遠する人も多いのではないかと思うのですが。

須賀

「疫学=統計学」というのは誤解です。真実に近い結果を得るには、明らかにしたい課題に対して、どういうデータを誰からどのように集めるかが最も重要です。疫学者はこの枠組を設計するプロです。正しい知識を持って研究計画を立てることが研究の成否を左右します。
最近では、データの統計学的解析は統計ソフトに任せることができますから、数式がわからないことはそれほどハードルにならないと思います。

教授×学生 対談
教授×学生 対談

伴野

―疫学によって何が解明されて、どんな成果が上がってきているのでしょうか。

須賀

疫学はあくまで手法であって、疫学自体が何かを解決できるわけではありません。ですが、疫学は医学の根底の部分に入っていて、臨床を支えています。疫学の手法を用いてエビデンスを得て、それが臨床に活かされています。その意味で疫学は医学の発展に必要不可欠だと言えます。
最近では、臨床研究のチームの中に疫学の専門家を必ず入れましょうという流れになっていて、疫学の重要性がみなさんに認識されるようになってきたように思います。

伴野

―疫学によって何が解明されて、どんな成果が上がってきているのでしょうか。

須賀

疫学はあくまで手法であって、疫学自体が何かを解決できるわけではありません。ですが、疫学は医学の根底の部分に入っていて、臨床を支えています。疫学の手法を用いてエビデンスを得て、それが臨床に活かされています。その意味で疫学は医学の発展に必要不可欠だと言えます。
最近では、臨床研究のチームの中に疫学の専門家を必ず入れましょうという流れになっていて、疫学の重要性がみなさんに認識されるようになってきたように思います。

教授×学生 対談

伴野

―本学の環境保健医学講座の特徴はどんなところにあるのでしょうか。

須賀

ひとつの講座の中に疫学系も実験系もあるというのが一番の特徴です。
疫学研究からエビデンスを得られても、そのメカニズムを明らかにするには実験が必要です。実験研究から何らかの結果を得られた場合にも、疫学研究によって人での裏付けを得ることが大切です。このような相互の関係性の下で研究を進められるところは、他にはないと思います。
数年前にある工場で肺障害が多発したことがあり、当講座で原因を調べる研究を行いました。国内外とも同様の事例の報告がなく、原因物質が明らかでない状況において、疫学チームが従業員の健康管理データから肺障害の発生状況を明らかにし、実験チームが動物実験で肺障害を引き起こす物質を特定しました。疫学系と実験系が一緒にいるからこそ為し得たことです。

教授×学生 対談

100%やり切ることで成長する

教授×学生 対談

伴野

―慈恵医大は研究がやりやすいと言われています。具体的にはどんなところが良いと思われますか。

須賀

本学の強みは誰もが自由に研究に取り組めるところです。その時の時流に乗った先進的なテーマでなくても、患者さんの役に立つ内容であればどんな研究でも受け入れてくれます。
2022年度から始まる中長期事業計画にも多様な研究を支援することを柱に掲げられています。多様性を許容して尊重する風土は居心地がよいと思います。

学内の人と人のつながりが強いところも良い点です。困ったら助けてくれる人たちがたくさんいます。何かわからないことがあるときは、ドアをノックすれば嫌がらずに教えてくれますし、一緒にやってみようかと言ってくれます。これは研究を進める上でとても心強いです。

伴野

―研究の道を目指している人たちにアドバイスはありますか。

須賀

私自身は自分が歩もうとする道筋を明確に描いて生きてこなかったように思います。どちらに進もうかと、ものすごく悩んだという記憶もありません。つまずいたときには必ず手を差し伸べてくれる恩師がいて、その時その時で行き先の選択肢が現れ、自分が行きたい方向に進んでいった結果として、研究医があり、疫学に出会うことができました。
ただ、一旦進もうと決めた道では100%努力して、何かしら最後までやり切ってから次の道に向かうようにはしてきました。紆余曲折しても、それぞれの経験が研究医としての糧になり、今の自分を形作っていると感じています。

教授×学生 対談

選択肢はいくつもありますし、いくらでも軌道修正できます。まずはやってみて、もし違ったと思えば次を探せばよいんです。そのうち必ずハマったと思えるものに出会えます。
大切なのは自分で決めたことを100%やり切ることです。それが自分を成長させますし、頑張っていれば周りの人たちも助けてくれます。
研究医を目指す人には、どんな分野であっても自分の興味の方向に向かって全力でチャレンジしてほしいと思います。

教授×学生 対談

伴野

―これからどんなことを目指されていくのでしょうか。

須賀

疫学者が学内に少なく、臨床医の研究計画のサポートが十分できていないので、ぜひこの部分を改善していきたいですね。データを集めてしまってからサポートをお願いされることが多いのですが、研究計画の段階から疫学の専門家が関わるのが理想です。このためにはまだまだ人材が不足しています。本学の研究を発展させるためにも、疫学に興味を持つ人を一人でも増やすことが私に求められている役割であるように感じています。

教授×学生 対談

対談者プロフィール

須賀万智教授

東京慈恵会医科大学
環境保健医学講座 教授
須賀万智(すか まち)

1995年に本学を卒業し、第二内科(現・腎高血圧内科)に入局。研修後に大学院に進学し、生化学で学位を取得。疫学を学ぶため門を叩いた聖マリアンナ医科大学予防医学教室にそのまま就職。約10年間の武者修行を経て、2010年に環境保健医学講座准教授、2021年に同講座担当教授。口下手は小さい頃から治らないが、産業医面談には定評あり。最近の関心はパブリックヘルスコミュニケーション。広報・コミュニケーションを学びたいと一念発起し、社会情報大学院大学に進学。教授の仕事の傍ら広報・情報学修士(専門職)を取得。

伴野

医学科5年生
伴野未沙(ともの みさ)

横浜共立学園高等学校卒業。高校時代の怪我をきっかけに予防医学や公衆衛生に興味を持ち、医学部入学を志す。大学2年次に厚生労働省やフィジー保健省でのインターンシップを行い公衆衛生への関心を強めた後、4年次に環境保健医学講座にて新型コロナウイルスパンデミック下の労働者に関する論文「Impact of overtime working and social interaction on the deterioration of mental well-being among full-time workers during the COVID-19 pandemic in Japan: Focusing on social isolation by household composition」を執筆。学内では空手道部に所属。