外来診療

胸郭変形(漏斗胸)外来

外来の特徴

当専門外来は、漏斗胸を中心とした胸郭の変形を取り扱う外来です。
外来担当スタッフが直接、米国のChildren’s Hospital of The King’s DaughtersのNuss(ナス)先生の所に手術見学に行き、講習を受けるなどして、治療のノウハウを学んだ上で、2001年より慈恵医大で始めた専門外来です。

診療内容

漏斗胸

胸郭変形外来(漏斗胸専門外来) 写真1

漏斗胸とは、胸の中央部が凹んでいる変形をいいます。多くはありませんが、家族性(兄弟や親子)に見られる場合もあります。一部の漏斗胸は成長とともにしだいに目立たなくなってくることも稀にありますが、一般的に漏斗胸は自然に改善することはなく、成長とともに変形が目立ってきたり、変形が片方にかたよってきたり(左右非対称)することが多く見られます。中等度や重度の陥凹を伴う漏斗胸の中には、陥凹した部分が心臓や肺・気管・気管支を圧排したりして、圧迫症状が出現するなど、将来、日常生活に支障をきたすようになって行くものがあり、注意が必要です。

症状

無症状の方も多くみられますが、肺や心臓が圧迫されるために、長い時間運動ができない・胸痛・息切れ・喘息(喘息気味)・風邪をひくと咳が長引くなどの症状がみられることがあります。米国のデータですが、術前の患者の8割程度に症状があるとの報告もあります。当院のデータでも中等度以上の陥凹がある場合、肺活量が低下している場合も多くみられます。我々の経験では圧迫に伴う症状は小児期よりも中学生以降から成人期に出現することが多くみられます。実際、30歳過ぎで圧迫症状が強くなり仕事に支障が出るようになり、手術後に症状が消失した患者さんもいらっしゃいます(漏斗胸が原因の圧迫症状は、手術により必ず消失します)。その他、手術後に症状が改善された事例として肺炎・気管支炎や喘息に罹らなくなったとか運動部の長時間の試合でも疲れなくなった、息が吸いやすくなったなど手術して初めて症状の改善を自覚される方もいます。更に、多くはありませんが、消化器症状の改善が見られた事例(小児の場合には手術後によく食べるようになった。成人では胃食道逆流症様の上腹部の不快感がなくなった。食べるときのつかえ感が消失した。など)の経験があります。いずれにしても、胸郭の陥凹に伴う圧迫症状であれば、手術で胸郭を挙上し圧迫を改善させると必ず消失します。

また、胸郭の変形を周囲に指摘されることによる本人に対する精神的悪影響も成長とともに問題になってきます。当院の外来でも、男の子でプールに入らなくなったり、不登校気味になったりされたかともいらっしゃいました。小学校前後では、上半身裸になる機会が多い男の子で特に気にするお子様が多いようですが、思春期以降だと女の子も胸部の変形を気にするようになり、下着が合わないなどの理由で外来受診されるかたが多くいらっしゃいます。漏斗胸のような胸壁の形態の異常は、筋肉や乳房の下にある胸壁そのものが陥凹しているので、筋肉の発達や乳房の発達では改善することが難しいのが現状です。漏斗胸は良性疾患で、単なる外観上の問題(美容的な問題)と認識される場合が多いようですが圧迫による症状や精神面での問題になることも少なくはありません。

病院での検査

写真撮影、レントゲン検査、呼吸機能検査、心電図検査、胸部CT検査などを行い、漏斗胸の程度や心肺に与える影響を正確に測定し分類します。特に胸部CT検査では、骨や軟骨の変形の形態の詳しい評価と心臓・肺への圧迫の状態を評価し、さらに心臓への影響が心配される場合は心臓の超音波検査・冠動脈の造影CT検査なども行われます。採血や注射などのお子さんに針をさすような検査は、手術が必要にならなければ行いません。検査の結果から、手術を行った方が良いのか、手術を行う場合、どの時期にバーをどういう具合(何本)に挿入するのか、また、手術を行うとどのように改善されるのかなどを説明し、手術を受ける本人とお父さんお母さんとも一緒に話し合って決めて行きます。

正常 漏斗胸(小児) 漏斗胸(成人)
成長とともに左右非対称な形状が進行することがあり、 特に、女性の場合には、乳房の形状と乳頭の向き(→)が気になることもある

治療

漏斗胸は、その凹みの程度から、「軽い」、「中くらい」、「重い」の3種類に分類されます。この分類は、病院で精密検査を受けて凹みの深さを正確に測定して決められます。胸部CT検査を行い陥凹の程度をより正確に評価します。「軽い」程度の漏斗胸は、漏斗胸をよくするための体操を行うだけで軽快することも見られます。また、アデノイドや扁桃腺などで呼吸に無理がかかっていて漏斗胸になっている場合には、これらが手術によって治癒または自然に軽快することで陥凹が改善することもあります。「中くらい」または「重い」の漏斗胸の中には、将来深刻な状態になって行くものがあり、注意が必要です。このような漏斗胸は、手術による治療が必要になる場合があります。

漏斗胸が深刻になると、いままで広く行われていた方法では、前胸部を切開して、胸骨や肋(軟)骨を切開して骨を挙上していました。しかし新しい方法として考案された、彎曲させたチタン製やステンレス製のインプラント(ペクタスバー)を胸腔に挿入して凹んだ骨(胸骨)を持ち上げて矯正する胸腔鏡下胸骨挙上術(Nuss法、ナス法)という手術を行っています(当院では最近全例でチタン製のバーを使用しています)。

胸郭変形外来(漏斗胸専門外来) 写真3

手術の時期

Nuss法が普及する前は漏斗胸の手術は、小学校に入る前に手術を行うのが良いと言われており、Nuss法を当院で開始した当初は、3歳でも手術を行ったことがありましたが、その後、8歳で手術を施行した数人で再陥凹により再手術が必要となった経験から、最近では10歳以降から骨の成長が止まるまで(男が17歳、女が15歳)に手術を受けることを推奨しています(Nussの施設も12歳以降にペクタスバーを抜去することを推奨しています)。Nuss法は陥凹した胸郭にペクタスバーを3年程度留置して陥凹した胸郭を挙上して矯正する方法であるので、手術時期が早いと治療終了後に成長の過程で陥凹が再燃する場合や逆に成人になると胸郭が硬くて陥凹の矯正に限界がある場合があります。しかし、早く手術したお子様全員が完全に元の陥凹に戻るわけではないので、当院では、陥凹が重度で「明らかに圧迫による症状がある場合」や「本人が気にしている場合」は5歳を過ぎれば手術をすることもあります。(治療の時期に関してはお子さんのスポーツや勉学の予定なども考慮し、適切な手術時期の範囲内で手術の時期を決めています)

手術(Nuss法)

手術は、胸腔鏡で胸腔内を観察しながら行い、創が目立たない胸部の両側側方(女児では乳房の外側の位置)にバー1本につき2.0~2.5cm前後の1か所ずつつくために目立ちません。手術は全身麻酔で行い、胸腔鏡を使用して行います。まず、バーを挿入するために切開した創部から胸腔鏡を挿入し胸の中を観察します。次に胸の中に二酸化炭素を注入して、手術(麻酔)中に肺が手術の妨げにならないようにします(人工気胸)。次に縦隔(胸骨と心臓の間)にバーを通す通り道を作成します。この部分の手術操作は、過去に重大な医療事故の報告がされている操作であるために、当院では安全に手術操作を行うために、胸骨の横に5㎜未満の小さな切開を加え、そこから胸骨を持ち上げる器具を挿入して陥凹した胸骨を持ち上げて心臓との距離を保ってから、胸腔鏡の器具を使用して安全に操作を行っています。最後に外来で用意したバーを1本挿入すると約60分で終了します(最近では2本以上のバーを使用する場合がほとんどです。この場合は、さらに創が一か所ずつ追加になり、バー1本につき手術も約20分程度長くなります)。 また、当院では胸腔ドレーンは使用していません。

成人の漏斗胸: 20歳以上の成人の方の手術経験も70例以上あり、胸郭の陥凹の改善は可能です。(30歳以降で手術を行い圧迫症状が消失した患者さんもいらっしゃいます。)しかし、成人の場合は、骨格が硬く、特に陥凹が重度な場合や、胸骨が捻れて左右非対称であるような場合は矯正が難しく術後の形状に不満が残る場合やバーの違和感が持続する場合や術後にバーが安定せずに変位(ずれ)を生じる場合もあります。手術中に胸骨を器具で拳上し、さらに胸骨や肋軟骨を部分的に切除し矯正を行う、バーを長めに留置する、などの工夫を行っています(肋軟骨の切開は比較的若い方は胸腔鏡で観察しながら、胸の中から切開しますが、骨格が固い場合や胸骨そのものが曲がっている場合は、胸部の前方を約6㎝切開して、従来型の胸骨挙上術に準じた方法で前方から肋軟骨を切開し、胸骨は年齢や湾曲の程度により横に切開しています)。

漏斗胸の再手術:手術時期が早くてNuss法による治療が終了した後に成長期に陥凹が再燃した場合や感染によりバーを抜去し治療を中断し陥凹が残っている場合に再手術を希望されることがあります。当院ではNuss法の再手術の経験も他施設からの紹介を含めて10例以上あります。しかし、再手術は肺の癒着や骨の変化もあり技術的にも難しく慎重に検討する必要があると考えています。

術後の胸部レントゲン写真

入院および手術後

手術の前日に小児または成人病棟に入院となります。入院期間は7から10日間程度です。手術後は、一晩ICU(集中治療室)で経過観察を行います。手術後の痛みに対して、病棟でも麻酔科の疼痛管理専用のスタッフが対応し、点滴から痛み止めを流し、痛い時に患者さん自身がボタンを押して薬を点滴する(PCA)と硬膜外麻酔(背中からチューブを挿入)を併用して痛みを取り除くようにします。点滴と硬膜外麻酔は5から7日程度使用します。飲水や食事は手術日の夕方または翌日の朝から可能です。術後の痛みが飲み薬のみで軽快し、日常生活が可能になったら退院となります。

退院後

退院後は、必要な方は痛み止めをしばらく飲んでいただきます。職場への復帰は、職種により異なることもありますが、通学は退院の翌日から可能です。

また、手術直後は、バーがずれないように約数ヵ月間の運動制限が必要ですが、その後はバーを挿入したままでも通常の運動やスポーツは可能です。運動制限は手術後1ヵ月以降に徐々に解除して行き、5ヵ月後にはサッカーやバスケットなどの運動や部活動(対外試合)を行うことも可能になります。(バーの留置直後は捻る運動や強い衝撃を受ける運動が最も問題になります)。バーはなるべく3年以上入れたままにし、その後再び入院し手術により抜去しますが、抜去手術時の入院は4日間です。 バーを抜いた後の運動制限は必要なく、痛みも軽いために退院後すぐに通学・通勤が可能になります。治療も終了になりますが、抜去後は高校生以上で1年程度、小児では成長が止まるころまで1年に1回程度通院していただいています。

漏斗胸術前(6歳男児)

陥凹が重度で、周囲からも言われ本人も気にするようになり6歳で手術を施行した
漏斗胸術後

2本のバーを使用し、前胸壁を挙上した 術後食欲も増進し体重も増加した (バーは3年留置予定で余裕がある大きさに作成した。就学前の年末に手術施行し、就学後は運動の制限なく通学している)
漏斗胸術前(15歳男児)

水泳部で、長く泳ぐと胸部の圧迫感が出現するために来院され、15歳で手術を施行した
漏斗胸術後

3本のバー(胸骨の裏に2本と再陥凹部に1本)を使用した。 手術後は、3カ月で水泳を再開したが、泳ぐときの胸部の圧迫感は消失した・

主な実績

Nuss法手術総数:(2018年3月まで):447例、ペクタスバー抜去手術:285例

Nuss法手術数(2013年):38例
Nuss法手術数(2014年):30例
Nuss法手術数(2015年):42例
Nuss法手術数(2016年):41例
Nuss法手術数(2017年):48例

外来表

慈恵医大附属母子センターにて

水曜日:午後13時30分〜16時30分
担当:芦塚 修一(小児外科)

 
午前
午後
13:30-16:30