乳腺疾患について

乳がんは手術だけでなく、薬物療法、放射線治療などを適宜組み合わせて治療を行ういわゆる集学的治療が最も効果的であることがわかっております。当院では乳がんの集学的治療は1985年より開始していますが、大学病院の特性を生かし、乳腺外科専門医、乳房再建を担当する形成外科医、抗癌剤治療を担当する腫瘍内科医、放射線治療を担当する放射線科医、治療後の妊娠を可能とするため受精卵凍結を担当する生殖医療専門医(産婦人科医)、治療時の口腔ケアのための口腔外科専門医(歯科医)、乳癌に対する遺伝子相談を担当、専門とする医師・看護師などとの治療チームを組織しています。また再発、転移を発症した症例では、積極的な治療はもちろんのこと、患者さんの希望や状態に応じて精神的ケアを担当する精神科医、疼痛などに対処する緩和ケア医(麻酔科医)などにも適宜治療チームに参加していただき、患者さんに対処いたしております。
治療チームは毎週行われる合同ミーティングを通して個々の患者さんの治療方法を話し合い、十分に討議された治療の選択肢を患者さんへ全て説明したのち、それぞれにあった最良の治療方法を提示しています。治療チームスタッフは患者さんとの緊密な関係を保つように努力し、治療にあたっては技術的な側面だけでなく、精神面の配慮を含め常に人間としての暖かい思いやりのある治療を心がけています。また病院として精神的、社会的にも患者さんの支えとなるように努め、治療中の生活の質の維持を目指し、大手化粧品メーカーと提携して抗癌剤療法施行中のアピアランス維持のためのメイクアップ教室開催、ケースワーカー、ソーシャルワーカーなどとの連携による就労支援などを行っております。

2015年度の手術件数は乳腺疾患272例であり乳がんは179例でした。乳がん手術法は、乳腺を部分的に摘出する部分切除術が116例、乳腺全摘出術が87例でした。
乳がんは腋の下(腋窩)のリンパ節に転移をおこす頻度が高いため、今までは腋窩のリンパ節を乳房とともに切除していました。現在では、手術前の超音波検査やMRI検査で腋窩リンパ節に転移が認められない時は、放射線同位元素(アイソトープ)と色素を用いて、最初に乳がんが転移を起こす可能性のあるセンチネル (見張り)リンパ節を見つけ、転移のない時は残りのリンパ節切除を省いています。当科では臨床研究として2004年度より実施してきましたが、この方法は厚生労働省の認可を受け2008年度より保険適応となりました。
2015年度のセンチネルリンパ節生検手術は、116例で、全乳がん手術症例の68.6%となっています。センチネルリンパ節に転移が無い時の入院期間は3〜5日です。このように当院では、最新の医療技術、知識を提供できるように心がけています。
また乳腺部分切除(乳房温存)術を実施した場合は、残した乳腺(残存乳腺)に放射線を照射しないと乳腺全摘術をした場合と同じ治癒率が得られないことが明らかとなっています。手術後、放射線治療部と共同で治療にあたっています。
乳がんは手術や放射線だけでは完治が見込めないことがあります。再発予防のため化学療法(抗がん剤)や抗ホルモン療法が必要です。腋窩リンパ節に転移があった時、腫瘤が大きい時、悪性度の高いがんなどは、化学療法、抗ホルモン療法を腫瘍・血液内科と共同して実施しています。
乳房全摘術を行い乳房再建を希望される方については、当院の形成外科と共同して、乳房全摘術と同時に乳房形成を実施し、精神的な喪失感等をなるべく少なくなるように配慮しています。

乳癌 年間手術症例数の推移
2016年度 乳癌手術の内訳

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