甲状腺・副甲状腺疾患について

甲状腺がんは、比較的若い、女性に発症しやすい傾向があり、治療としては手術でがんと周囲のリンパ節を摘出することが第一選択となります。これは甲状腺がんで最も頻度が高い乳頭がん、濾胞がんでは、抗がん剤治療、放射線療法はあまり効果が認められていないからです。しかしその予後は良好で、手術後5年生存率は約90%以上という生物学的特性があります。
若い女性が多いこともあり手術では皮膚の切開は皮膚のしわに沿いなるべく鎖骨に近い部分で行い、縫合も表皮は縫わずにテープで固定するだけにしています。このような美容的配慮により、手術後6ヶ月程で傷はほとんど目立たなくなります。また甲状腺周囲には甲状腺と密着して左右2個ずつ存在する組織に副甲状腺があります。副甲状腺は甲状腺と全く別の組織で、血中のカルシウムを維持させる重要な役割を持っています。当センターでは手術中に副甲状腺を同定し、がんの手術でも甲状腺とともに切除することなく極力温存するようにし、術後のカルシウム製剤の服用を避け、生活の質をなるべく落とさないように努力しております。
甲状腺がんは予後が良く、手術で取り切ってしまえば、再発転移を生じる症例は全手術患者様の約10-15%とされております。再発、転移部位は頸部および胸部リンパ節、肺、骨(背骨、骨盤、大腿骨など)が多いとされております。
残念ながら再発転移が生じた場合、治療方法は手術可能な頸部および胸部リンパ節などに対しては外科的摘出、肺、骨転移などには放射線療法を施行します。放射線療法は乳がんと同様に、外部から放射線を転移部位に照射する外照射と、甲状腺がんにのみ行うヨード(I)に放射性物質を結合させた131Iを注射、あるいは服用していただく内照射を組み合わせて行うことが有効とされております。内照射療法は甲状腺ホルモンの原料がヨードでありヨードが甲状腺細胞にのみ取り込まれるという性質を利用し、甲状腺由来のがん細胞である甲状腺がん転移部位のみを攻撃しようというものです。
この内照射療法がおこなえる施設は東京都では当院を含めて2〜3箇所しかないのが現状です。このため他施設から治療の依頼も多く混雑しておりますが当院ではこの希少な施設を利用して積極的に甲状腺がん転移症例の治療を行っております。
また2016年度より甲状腺がんに対する有効な抗がん剤が開発され使用可能となっております。

副甲状腺は通常甲状腺の左右に2個ずつ存在します。そこから分泌される副甲状腺ホルモンは、骨の新陳代謝を誘導するために古い骨組織を溶かす破骨細胞に作用しその活動を活発化します。この時骨組織から血中にカルシウムが放出されます。副甲状腺に腫瘍ができると副甲状腺ホルモンが過剰分泌され、血中カルシウムが異常に高くなることがあります。高カルシウム血症状態は筋肉の異常収縮を起こし不整脈などの心疾患、胃潰瘍、慢性膵炎、尿路結石、関節炎などを引き起こします。また同時に全身の骨組織も弱くなり骨粗鬆症になりやすくなってしまいます。このため腫瘍化した副甲状腺を摘出する手術が必要となります。この腫瘍は病理学的には良性であることがほとんどであり、かつ1腺のみの腫瘍であることが多いため、手術の皮膚切開は約3cmの小切開にて施行しております。

2015年度の頸部疾患の手術件数は65例でした。このうち甲状腺疾患は50例で甲状腺がんは34例でした。副甲状腺疾患は15例で全例とも良性腫瘍である副甲状腺機能亢進症でした。甲状腺がんも乳がんと同様に増加傾向であり、当科でも手術件数が増加しております。副甲状腺機能亢進症は2011年にシナカルセットという副甲状腺ホルモンの分泌を特異的に抑制する治療薬が登場し、内科的コントロールがより安全に可能となったため、外科的治療は減少傾向となっております。
現在当院では甲状腺がんの疑いのある腫瘍に対しても、センチネルリンパ節生検を伴った手術を実施しています。最も頻度の高い乳頭がんについては、手術前の細胞検査でほぼ95%以上診断が可能ですが、次いで頻度の高い濾胞がんは手術前に濾胞がんと診断できるのは約20%です。このため当科では濾胞がんの疑いのある症例の手術の際に腫瘍の摘出と同時にセンチネルリンパ節生検を実施し、リンパ節転移の有無を手術中に確認しています。もし転移があれば、手術術式を腫瘍摘出だけでなく、やや大きく甲状腺を切除するがんの手術に変更して必要十分な切除を実施しています。

甲状腺・上皮小体 年間手術症例数の推移
2016年度 甲状腺手術の内訳

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