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小児科 アレルギー診療:喘息

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それって本当に喘息??

「走り回った後から咳が止まらない。」「季節の変わり目になると咳が出やすい。」「寝ている時にゼーゼーして苦しそう。」「気管支が弱く喘息の気があると言われた。」イラスト

発作的な咳症状を繰り返すお子さんに対して吸入薬や貼付剤などの気管支拡張薬が外来で使用される機会は少なくありません。これまで気管支喘息と診断されてこなかった方でもこれらの治療で症状が良くなることもあります。ところが、中には気管支喘息の治療ではなかなか咳症状が良くならず、また一度は良くなったとしても繰り返してしまうケースがあります。発作的な咳は本人が苦しいのはもちろんのこと、ご家族の方々も心配になりますね。
本稿では一見、気管支喘息と思われがちな病気について各疾患の特徴に触れながら簡単にご説明します。

1. 気管支喘息ってどんな病気?

まずは気管支喘息で咳が起きて呼吸が苦しくなる理由についてご説明します。

イラスト私たちは普段、呼吸をしながら空気中の酸素を取り込み、
体内で発生した二酸化炭素を外に出すという交換を無意識
のうちに肺と呼ばれる臓器で行っています。気管支喘息で
息苦しくなるのは、この口から肺までの気道と呼ばれる
空気の通り道が、何らかの原因で分泌物の増加やむくみ、
気道周囲を取り巻く気道平滑筋の収縮などを起こして狭く
なっているためです。何らかの原因というのはハウスダストなどのアレルギーであることもあれば、感染、運動や冷気、
タバコの煙といったものが刺激になっていることもあり
ます。また、気管支喘息では気道過敏性と呼ばれる状態も特徴の一つで、咳を誘発しやすい状態になっています。そのため、気管支喘息の発作時には気道を広げるための吸入薬や貼付薬などの気管支拡張薬が主に使用され、発作のない間は分泌物の増加やむくみの原因となる炎症を抑えるためにステロイド薬の吸入などが行われます。

2. 気管支喘息以外に考えられる病気

このような気管支喘息の特徴を踏まえ、気管支拡張薬への反応性やアレルギー歴(ご家族も含めて)、聴診所見などを参考に私たちはその症状が気管支喘息発作によるものであるかを考えるのですが、時に似たような症状で鑑別を要する病気がありますのでその一部をご紹介します。

  • 急性気管支炎/細気管支炎
    ウイルスや細菌感染により気管支や細気管支に炎症が生じている状態です。喘息と区別することが難しいこともよく経験しますが、周りに似た症状の流行があることが多いです。
  • 鼻炎・副鼻腔炎
    慢性的な鼻詰まりやドロっとした鼻水が主な症状であり、鼻の奥やのどに鼻水が垂れ込むことで気道が直接的に刺激されて咳症状が出ます。頭痛や頭重感を伴うことがあり、症状やレントゲンを参考に診断します。抗菌薬や抗ヒスタミン薬の内服で症状が良くなりますが、難渋するケースでは耳鼻咽喉科での診察が勧められます。
  • 声帯機能不全
    普段、息を吸う際に開く声帯が、運動や冷気、心理的ストレスなどが原因で吸気時に閉じてしまう病気です。息を吸う際の呼吸困難感や咳症状を呈します。喉頭内視鏡で声帯の動きを直接観察することで診断します。浅く速い呼吸で症状を落ち着かせたり心理的要因を取り除くためのカウンセリング行ったりするのが治療の中心となります。
  • 胃食道逆流症
    胃の内容物や胃酸が食道に逆流している病気です。咳や声枯れなどの症状が出現し、胸焼けや心窩部痛(しんかぶつう)を伴うことが多いです。頭を高くして眠る、ベルトをきつく閉めないなどの生活習慣の見直しや胃酸を抑える薬が治療になります。
  • 心因性咳嗽
    感染症や気道の構造上の問題がなく、心理的ストレスが原因で発作的に咳が出現します。他の原因となる病気を除外し、原因となりうるストレスを特定し除去することが診断と治療になります。
  • 血管や気道の解剖学的な問題
    生まれつきの咳症状が特徴になり、新生児期や乳児期の症状が主です。大きな血管によって気管が圧迫されていたり、気管が柔らかいためにつぶれやすかったりするために咳症状や哺乳不良などが見られます。診断にはCT検査や気管支鏡検査が必要となりますので、生まれつきのゼーゼーや咳症状が続く場合、 哺乳不良や体重増加不良が見受けられる場合は、出生した病院やかかりつけ医に相談しましょう。

上記以外にも呼吸機能検査やCT検査、気管支鏡検査などを行うことで診断される病気もあります。
症状がなかなか良くならないとお悩みの際は、これって本当に喘息?という視点のもと当院外来でもお気軽にご相談いただければと思います。

イラスト

気管支喘息の治療

①環境整備

イラスト喘息を悪化させる因子として、ダニ、ハウスダスト、カビ、ペットなどに由来する抗原が
挙げられます。ダニの多い場所はまくら、布団、じゅうたん、布製ソファー、クッション、
ぬいぐるみ、カーテンなどです。
洗濯できるものはこまめにし、毎日の掃除など日常生活の環境整備が非常に大切です。

②薬物療法

気管支喘息の発作時には気道を広げるための吸入薬や貼付薬などの気管支拡張薬が主に使用され、発作のない間は分泌物の増加やむくみの原因となる炎症を抑えるためにステロイド薬の吸入などが行われます。

役割   商品名(抜粋)
気道を広げる 気管支拡張薬 ホクナリン®、メプチン®など
吸入選択的β2 刺激薬 メプチン®、ベネトリン®、サルタノール®など
ロイコトリエン拮抗薬 オノン®、シングレア®、キプレス®など
気道の炎症を抑える 吸入ステロイド薬 フルタイド®、キュバール®、オルベスコ®、パルミコート®など
吸入ステロイド薬・β2 刺激薬配合剤 アドエア®、フルティフォーム®など

気管支喘息の薬物治療は重症度に応じて治療ステップを選択します。
重症度は図のように大きく4つに分けられています。

重症度表

(文献1より一部改変して掲載)

イラスト薬物治療は、長期管理として基本治療と追加治療に分けられます。治療開始後、症状が不安定であれば追加治療を開始、
1か月以上安定しなければステップアップします。また、
3ヶ月以上症状が安定していればステップダウンを考慮
します。また発作の出やすい時には、短期追加治療として
ホクナリン®(テープ、ドライシロップ)、メプチン®
(ドライシロップ、シロップ、錠、吸入など)を追加
します。短期追加治療が2週間以上必要な場合には追加治療
やステップアップが考慮されます。

小児喘息の長期管理プラン(6〜15歳)表

小児喘息の長期管理プラン(6〜15歳)

(文献1より一部改変して掲載)

喘息の最新治療

イラスト近年では、6歳以上の重症喘息児に対する生物学的製剤の保険適応が認められました。検査値などの条件は薬剤によって違いますが、いずれの薬剤も、これまでの治療では効果が乏しいお子さんが対象となっています。
比較的新しい薬剤ではありますが、効果が高く、大きな副作用も見られていないことは大きな利点です。一方、欠点としては、注射薬であること、医療費が高額になることが挙げられます。
これまで治療の選択肢がなかった重症なお子さんに対してはとても画期的な薬剤ですが、もちろん全ての喘息のお子さんに効果があるわけではなく、開始にあたっては担当医と十分な相談が必要です。

  一般名 商品名 対象年齢 用法
抗IgE抗体 オマリズマブ ゾレア® 2014年〜6歳以上 注射薬 2〜4週毎
抗IL-5抗体 メポリズマブ ヌーカラ® 2016年〜12歳以上
2020年〜6歳以上
注射薬 4週毎
抗IL-4/IL-13受容体抗体 デュピルマブ デュピクセント® 2019年〜12歳以上 注射薬 2週毎

1. 足立 雄一, 滝沢 琢己, 二村 昌樹, 藤澤 隆夫 監修. 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020.協和企画 2020.

喘息の吸入ステロイドの使い方、本当に合っていますか??

喘息はヒューヒュー、ゼーゼーを繰り返す気管支が狭くなる病気ですが、症状のないときも気管支で炎症が続いています。喘息発作(ヒューヒュー、ゼーゼー)の治療は気管支を広げる薬(発作時治療薬)ですが、症状がないときもロイコトリエン拮抗薬や吸入ステロイドといった気管支の炎症を抑える薬(長期管理薬)を使用します。

イラスト

飲み薬は飲み込むだけなので間違いは少ないですが、吸入薬は吸入の仕方で効果が変わってきます。当院で吸入ステロイド開始する場合は、環境再生保全機構のパンフレットで吸入方法を指導しています。パンフレットのQRコードから動画も見られるので、自宅でも確認できるようになっています。(※パンフレットへのリンクは下部に記載)
外来受診の際に、発作の頻度が増えたり、運動したときの咳や呼吸困難感が増えたりした場合は、吸入を毎日できているか、吸入方法は適切か確認しています。当初は適切に吸入が出来ていても、時間が経つにつれて適切な吸入方法が出来なくなってしまっていることをしばしば経験します。
ヒューヒュー、ゼーゼーする喘息発作がなくなると、吸入を忘れがちになることもありますし、吸入を毎日していてもやりかたが指導された方法と変わってしまい効果が落ちてしまっていることがあります。

<以下に実際にあった間違った吸入方法の例をいくつかご紹介します。>

イラスト

■エアゾール製剤(スプレータイプのもの。吸入補助具(スペーサー)を使用)

例:フルタイドエアゾール®やアドエアエアゾール®、フルティフォーム®など

①口を閉じて吸っている

・・・口を開けて吸わないと薬が気管支に届きません。
「口あけて」といっても開けてくれない子も「アーン」してというと口を開けてくれることがあります。

②息を吹いてしまう

・・・小さいお子さんは「吸う」というのがわからなくて勢いよく吹いてしまうことがあります。
スペーサーを使用すれば普通の呼吸で5呼吸程度すればよいので、「吸って」と声かけしないほうが普通に呼吸できることがあります。

■ドライパウダー製剤(小さな粉を自分の力で吸うタイプのもの)

イラスト

例:フルタイドディスカス®やアドエアディスカス®など

①吸ってすぐ吐いてしまう

・・・吸ってから息止めすることで、気管支に薬が行きわたります。
吸ってすぐ吐くとほとんど気管支に薬が届いてないかもしれません。

②ディスカスでレバーをわざわざ戻してから吸っている

・・・デバイスの操作の問題で、ディスカスタイプはカバーを開けてレバーを押し込んでから吸入します。
レバー押し込んだ状態だと吸入口が空いているのですが、押し込んだレバーを戻してしまうと吸入口が閉じてしまいます。その状態では薬は吸えていません。

このように気づかないうちに間違った吸入方法になっていることがあります。
調子が悪いなと感じたらパンフレットや動画などで吸入方法を再確認してはどうでしょうか。

<参考文献>
おしえて 先生!子どものぜん息ハンドブック.環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/00/archives_28016.html