診療科・部門

小児外科:診療内容

腹腔鏡および胸腔鏡手術(鏡視下手術)

慈恵医大小児外科の2017年の入院総数は377例で全身麻酔手術総数は332例です。そのうち、腹腔鏡や胸腔鏡を使用した鏡視下手術は121例で、母子センター開設以来、入院総数および手術総数と鏡視下手術数は、毎年増加傾向です。2017年は、手術数は減少しましたが、この10年間は年間約400例前後の手術件数を維持しています。

鏡視下手術とは、お腹に数か所の小さな穴をあけて、そのうちの一ヵ所は主にへその周囲からカメラを挿入し、その画面を見ながら手術を行う方法です。お腹や胸を大きく開けることなく手術の創も小さく美容的に優れ、手術後の痛みも今までの胸やお腹を開けたりする手術と比べると軽くなります。また、2005年より、鼠径ヘルニアに対しても腹腔鏡手術(LPEC)を施行するようになりました。この手術の利点は、将来発症する可能性のある反対側のヘルニアも確実に診断でき同時に手術できることです。手術の創は、今までのヘルニア修復術でも下腹部のシワに沿った2cm弱の切開創であるために目立ちませんが、腹腔鏡の場合は、臍のシワの部分の創と右下腹部の3mmの創とヘルニアの部分の針を刺した跡のみなので手術による創はほとんどわからなくなります。また、鼠径ヘルニアの場合は腹腔鏡手術でも入院期間や術後の経過は従来のヘルニア手術と変わりません(手術の翌日に退院が可能です)。

その他、当院で行っている胸腔鏡手術は、漏斗胸、肺の切除手術、縦隔の手術、などがあり、腹腔鏡手術は、胃食道逆流症(GERD)に対する噴門形成術、アカラシアに対するHeller手術、お腹の手術操作が必要となる鎖肛やヒルシュスプルング病、卵巣囊腫や副腎腫瘍の摘出、血液疾患での脾臓の摘出手術など保険適応が認められている疾患に対してはほとんどの疾患で行っており、中でも漏斗胸、噴門形成手術と脾臓摘出手術の経験数は日本でも有数です。また、最近では、尿膜管遺残や精索静脈瘤・腎臓(部分も含む)の摘出などの泌尿器疾患にも腹腔鏡手術を取り入れています。

胎児診断も含めた周産期および新生児治療

近年、妊婦(胎児)の超音波検査の性能と技術の進歩に伴い、赤ちゃんの病気がお母さんのお腹に中にいる時から発見され、MRI検査などを加えることでかなり詳細にわかるようになりました。お母さんのおなかの中にいる赤ちゃんの様子を超音波で見ている時に、内臓の異常が見つかることがあります。胎児期に腫瘍(奇形腫、神経芽腫、リンパ管腫など)や横隔膜ヘルニア、CCAM(先天性嚢胞性腺腫様奇形)、食道閉鎖、腸閉鎖、鎖肛、腹壁破裂、臍帯ヘルニア、水腎症など様々な異常が見つかることがあります。

胎児診断がついた患者さんに対しては、産婦人科や新生児科と定期的にカンファレンスを開いて、各科が協力してその分娩の時期および分娩法から出生後の治療方針を決めます。我々のスタッフのうちの2名が胎児治療では世界でも最先端の施設である米国の施設(カリフォルニア大学サンフランシスコ校:UCSFとフィラデルフィア小児病院:CHOP)に2年以上留学し、研究や手術などの臨床見学を経験しておりその経験をもとに日本での臨床を行っています。胎児治療とは、生まれる前に異常が見つかり、病気の進行により妊娠の継続が危ぶまれたり、出生後の救命が難しいことが危惧される赤ちゃんに対し、妊娠中に手術や治療を行ったり(手術した赤ちゃんは一度子宮の中に戻します)する治療です。日本で実際胎児治療を行うには様々な障壁がありますが、我々スタッフの米国での経験や知識を生かして最良の治療をすすめていきます。2015年に胎児診断された気管内腫瘍に対してEXIT(ex utero intrapartum therapy)を産婦人科・新生児科・麻酔科などの協力のもとに成功させました。EXITとは、気管や頸部に呼吸の妨げとなる異常がある胎児に対して分娩時に臍帯血流を温存したまま胎児の気道を確保し,その後に臍帯を結紮・切断する方法です。この方法により赤ちゃんに低酸素による障害を合併させることなく救命が可能になります。

新生児期に手術を行わなければならない病気としては、横隔膜ヘルニア・臍帯ヘルニア・腹壁破裂・食道閉鎖・腸閉鎖・腸回転異常・鎖肛・ヒルシュスプルング病・肥厚性幽門狭窄症など、多くの種類の病気があります。

横隔膜ヘルニア、臍帯ヘルニア、腹壁破裂

手術そのものの難易度は高くありませんが、術前術後の呼吸管理を含めた全身管理が重要かつ難しいのが特徴です。そのため、小児外科のみでなく新生児科のスタッフと一緒に治療をすすめます。最近では横隔膜ヘルニアに関しては、患者さんの状態によっては胸腔鏡(または腹腔鏡)で横隔膜の修復術を行っています。また、腹壁破裂に関しては、臍の形成を含めた術後の整容性も考えた治療を行っています。

食道閉鎖症

特殊な場合を除いて現在では胃瘻は作らずに一期的に食道をつなぐ手術を行います。術後は、胃が食道側に引っ張られるために胃食道逆流症も問題になってきます。最近では右腋下の創から手術を行い、術後の創の整容性の改善に努めています。

鎖肛

Penaが行っている術式に準じた手術方法で肛門形成を行っています。直腸の盲端が高い位置で終わっているタイプ(高位型と一部の中間位)には、腹腔鏡手術を併用し、術後に良好な排便機能が得られ創も目立たないように工夫して肛門形成術を行います。また、尿路奇形や脊髄の異常を伴うことも多く、的確な診断を行うとともに尿路奇形の評価や小児脳外科医との協力が必要です。

ヒルシュスプルング病

正常な排便ができず、便秘やお腹がはるなどの症状が出現します。ヒルシュスプルング病が疑われる場合は、注腸造影検査、直腸肛門内圧検査、直腸粘膜生検により診断を行います。病変の広がりによって術式や術後の経過が異なってきますし、腹腔鏡による腹部の手術操作が必要なことがあります。

肥厚性幽門狭窄症

生後1か月前後で男児に多く発症し、胃の出口の幽門筋が厚くなり、胃からの排出が悪くなるため、ミルクを嘔吐し徐々に吐く量が増えてくることで来診されます。診断には超音波が有効です。当院では腹腔鏡は採用せず、臍の創だけで幽門筋切開術を行っています。手術時間は1時間程度で手術後の創も分からず整容性にも優れています。

成人外科グループとの合同による治療

東京慈恵会医科大学の小児外科は、外科学講座の7つの診療部の1つです。そのため、当院の成人領域での治療経験が豊富な胸腔鏡や腹腔鏡手術に対して協力し最良の治療を行うことが可能です。鏡視下手術以外にも胸部外科(縦隔や肺の疾患)、肝胆膵外科(小児では症例が少ない肝臓や膵臓の腫瘍や外傷および胆石など)の治療や内視鏡を使った診断や治療(食道静脈瘤の硬化療法・胃瘻造設・ポリープの切除など)も柔軟に対応が可能です。

その他、小児外科で行っている治療内容に関しては、東京慈恵会医科大学外科学講座のホームページや母子センターでの専門外来(胸郭変形外来・小児外科小児泌尿器外来)もご参考下さい。