■ 柏病院TOPページ

自然気胸の基礎知識


内容一覧


1. 気胸とは
4. 気胸の検査
7.気胸の治療
2. 気胸の分類
5.気胸の重症度
8.気胸の手術
3. 気胸の症状
6.重症度に応じた治療方針
9.胸膜癒着術

気胸とは


気胸(ききょう)とは肺から空気がもれて、胸腔(きょうくう)にたまっている状態をいいます。空気が漏れてたまっても、胸は肋骨があるために風船のように外側に膨らむことはできません。その代わり、肺が空気に押されて小さくなります。つまり、肺から空気がもれて、肺が小さくなった状況が気胸なのです。


気胸の分類


自然気胸
気胸(ききょう)は、10歳台後半、20歳代、30歳代に多く、やせて胸の薄い男性に多く発生します。肺が一部、ブラと呼ばれる袋になり、ここにある時、穴が開くのです。これは運動をしているときに起こすわけではありません。交通事故やナイフで刺されたというような、明らかな理由もなく発生するので、これを自然気胸と呼びます。医学用語では理由がよく分からないことを特発性(とくはつせい)というので、この気胸のことは特発性自然気胸という長い呼び方をします。
自然気胸では肺に穴が開いて、一時的に空気が漏れますが、多くはすぐに閉じてしまいます。漏れた空気は血液に溶け込んで次第に消失します。
気胸の問題点は、穴がふさがらず、空気が漏れ続けるときです。また、しばしば再発を起こすことも問題です。
肺気腫(はいきしゅ)や肺がんのように、何か肺の病気があり、これが原因となって起こるときは続発性(ぞくはつせい)と呼んでいます。これも、交通事故やナイフで刺されたというような、明らかな理由もなく発生するので、自然気胸と呼びます。つまり、続発性自然気胸という長い呼び方をします。続発性自然気胸は肺の病気を持っている人になりますから、比較的高齢者に多い病気です。


外傷による気胸
交通事故で肋骨が折れて、肺に刺さると気胸(ききょう)を起こします。このように起きた気胸は外傷性気胸と呼びます。
病院で針をさすような治療や検査を受けたときにも気胸を起こすことがあります。この場合、医原性(いげんせい)気胸と呼びます。


生理による気胸
月経随伴性気胸(げっけいずいはんせいききょう)という変わった気胸があります。これは生理(月経)の前後に発症する気胸です。
月経随伴性気胸の原因は、子宮内膜症が横隔膜に広がり、生理のときに横隔膜に穴が開くことにより空気が胸腔に空気が入り気胸となる、あるいは肺に子宮内膜症があり生理に際して穴が開くことが原因であると考えられています。
気胸は女性には比較的少ないので、女性が気胸を起こしたときは、月経随伴性気胸の可能性を考えておかなくてはなりません。治療は外科療法かホルモン療法を行います。


気胸の症状


気胸は突然肺に穴が開いて空気が胸腔(きょうくう)に漏れる疾患です。
症状としては胸痛、呼吸困難、咳がありますが、まれに症状がないのに胸部レントゲン検査で発見されることがあります。
空気が大量に漏れると、肺がしぼみ、さらに心臓を圧迫してショックになることがあります。また、同時に左右肺の気胸を起こすと大変です。


気胸の検査


気胸を診断するため、胸部レントゲン検査を行います。胸部レントゲン検査で気胸があることが診断できたら、胸部CT検査を行います。高度の気胸(肺がほぼしぼんでいる)のときは胸部CT検査を行っても、肺の情報が少ないので、肺が膨らんでから胸部CT検査を行います。


気胸の重症度


気胸の程度は以下のように分類されます。


<気胸の重症度>

軽度気胸 胸部レントゲン検査で気胸を起こしており、肺尖(はいせん:肺の頂上)が鎖骨より上にある。
中等度気胸 胸部レントゲン検査で気胸を起こしており、肺尖(はいせん:肺の頂上)が鎖骨より下にある。
高度気胸 胸部レントゲン検査で気胸を起こしており、肺の虚脱が著しい。
緊張性気胸 高度気胸で、さらに肺から空気がもれ続けると、胸腔内が陽圧になっている状態。

重症度に応じた治療方針


軽度気胸
軽度気胸で症状がなければ、入院しないで安静にし、外来で胸部レントゲン検査を適時行います。胸に針を刺して空気を抜く治療もありますが、肺が膨らむと閉じていた肺の穴が再開通する可能性があるので行いません。軽度の気胸で肺の穴が再開通しなければ、漏れていた空気は自然に血液に溶けて消失します。1〜3週間で元に戻るでしょう。
軽度気胸でも、痛みや呼吸困難の症状があれば入院していただいた方が安心です。


中等度気胸、高度気胸
中等度気胸や高度気胸のときは、入院し胸腔ドレナージを行います。胸腔(きょうくう)ドレナージとは、胸腔にたまったものを外に排出することです。具体的には、胸に局所注射の麻酔を行い、管(チェストチューブ)を挿入するのです。管を箱(チェストドレーンバッグ)に連結し、たまっている空気や新たに漏れた空気を外に排出するのです。このドレーンバッグは外から空気が逆流しないようになっています。管が入っていてもドレーンバッグを持ってトイレに行ったり歩いたりすることが可能です。
肺が膨らみ、管(チェストチューブ)からの空気もれが無くなったら、管の抜去を行います。管の抜去後、肺のふくらみが良好なら退院です。


緊張性気胸
緊張性気胸は生命に危険のある状況です。高度気胸で、さらに肺から空気がもれ続けると、胸腔内が陽圧になります。これにより、肺に血液が戻る経路の肺静脈を圧迫し、心臓に血液が戻りません。心臓に血液が来ないと、心臓が収縮しても血液を体に送ることができません。つまり、血圧が低下しショックを起こすので生命の危険があります。
緊張性気胸を起こしたら、急いで胸腔内の空気を外に出して陽圧を解除することが重要です。つまり早急に胸腔ドレナージが必要です。一刻を争うような状況では、胸に注射針を刺すことによりまず陽圧の解除を行います。
肺が膨らみ、管(チェストチューブ)からの空気もれが無くなったら、管の抜去を行います。管の抜去後、肺のふくらみが良好なら退院です。


気胸の治療


自然気胸の治療を中心にお話します。
気胸の程度が軽症で症状がなければ、外来でどきどき胸部エックス線検査を行って経過観察を行ってかまいません。このときは安静にして穴のふさがるのを待つのです。
針で胸の空気を抜く方法もあります。もれた空気を抜くと肺は膨らみますが、それにより肺がしぼんで閉じていた穴が再開通する可能性があるので、軽症なら放置していたほうがよいでしょう。
気胸の程度が中等症や重度のときは、入院して胸に管を入れて、管の反対側を箱に取り付けます。この管を胸腔ドレーン、箱をドレン・バックと呼びます。この箱は、あふれ出た空気を外に排出しますが、外から空気が逆流しない仕組みになっています。管を入れたままにしておき、空気があふれなくなったら管を抜きます。
以上の治療法は保存的治療と呼び、気胸の原因であるブラに対する治療は行っていません。


気胸の手術


気胸の問題は、再発することです。初回の自然気胸に対しての外科療法はどうするのでしょう。手術の目的は原因であるブラを切除することです。外科治療には胸腔鏡手術といって、穴を開けて行う手術と、胸を開く開胸手術あります。以前は胸腔鏡手術がなく、初回では手術をあまり考えませんでした。手術を考えるのは、ブラが明らかなとき、空気の漏れが何日も止まらないとき、肺のしぼみ方の程度が強かったときなどです。しかし、最近は胸腔鏡手術が発達し、手術を適応することが以前より多くなっています。しかし、残念なことに、開胸手術に比較して、胸腔鏡下手術のほうが気胸の再発率が高いというデータがでたので、各施設で様々な工夫が行われています。


気胸の手術の必要性
気胸に対しては前述のような方針で治療を行います。気胸になってもその後一生気胸を起こさない方も多くいますが、気胸の問題点はある日突然再発を起こすことです。若い方に多い病気なので、試験のときに気胸を起こす、他の大事なときに気胸を起こして困ることがあります。
気胸を起こさないようにする治療として手術があります。手術をお勧めするのは、以下のような状況です。


  • 気胸に対する胸腔ドレナージを行って空気の漏れが止まらない場合
  • 気胸が再発した場合
  • 左右両側の気胸の場合

これらの患者さんに対しては手術を積極的に行っています。
気胸の手術は全身麻酔を施行し、通常、胸腔鏡手術を選択しています。


気胸の手術方法
気胸の手術は胸腔鏡下手術を選択することが多いです。病変が多発するときや広範なときは、胸腔鏡補助下手術や開胸手術で行うこともあります。全身麻酔が必要です。
胸腔鏡下手術では、胸に2cmほどの切開を3ヶ所行い、ここから照明付きカメラ(胸腔鏡)と肺を持つ道具、肺を切る道具を挿入します。肺の病変部を切除して、手術後の液体や空気を外に出すように胸腔ドレナージをして手術を終了します。
胸腔鏡下手術は開胸手術に比べて利点と欠点があります。
長所は傷が小さく、美容的に優れていること、手術当初の痛みが開胸に比較して少ないことです。開胸に比べ気胸の再発率が高いことが、胸腔鏡下手術の始まった時期に問題になりましたが、現在は胸膜被覆術を加えており、この欠点はほぼ克服されたと考えています。欠点としては、出血などの緊急時の対処が遅れる可能性もありますが、気胸の手術ではこのような状況は考えにくいです。


胸膜癒着術


肺機能が著しく悪い、心臓が悪いなどの体力的に手術ができない方に対しては手術を行いません。また、肺全体に病変のある方も手術が行えません。この場合、胸に入った管(チェストチューブ)から薬を入れて、肺を周囲と癒着させ気胸を起こさないようにします。この方法は手術と比較して効果が不確実です。


▲このページのTOPへ