診療科・部門

小児外科:診療内容

腹腔鏡および胸腔鏡手術(鏡視下手術)

慈恵医大小児外科の2014年の入院総数は438例で全身麻酔手術総数は410例です。そのうち、腹腔鏡や胸腔鏡を使用した鏡視下手術は126例で、母子センター開設以来、入院総数および手術総数と鏡視下手術数は、毎年増加し、現在は年間400例以上の全身麻酔総数と150例近い鏡視下手術数を維持しております。(2012年からは柏病院へ専門資格を持つ常勤医が勤務して新生児や難易度の高い手術も開始し、2014年からは葛飾医療センターへも小児外科の常勤医を派遣し小児外科の手術を本格的に開始しました。)

鏡視下手術とは、お腹に数か所の小さな穴をあけて、そのうちの一ヵ所からカメラを挿入し、その画面を見ながら手術を行う方法です。お腹や胸を大きく開けることなく手術の傷も小さく美容的に優れ、手術後の痛みも通常のお腹を開けたり胸を開けたりする手術と比べると軽くなります。当院では、全国でまだ数が少ない内視鏡外科技術認定医が2名スタッフとして勤務しており、慈恵医大独自の内視鏡技術認定制度もあり、手術技術の向上と安全を重要視しております。また、2005年より、鼠径ヘルニアに対しても腹腔鏡手術(LPEC)を施行するようになり、近年では、年間約100例近くの鼠径ヘルニアに対してこのLPECを行っています。当院では、嵌頓の危険性が高い新生児や小児鼠径ヘルニアと同じような機序で発症している20歳前後までの青年の患者さんにも術式を工夫して行っています。中学生以上での経験はまだ多くありませんが短期間の経過観察では再発なく、創も目立たないため有効な術式であると思われます。この手術の利点は、将来発症する可能性のある反対側のヘルニアも確実に診断でき同時に手術できることです。手術の創は、今までのヘルニア修復術でも下腹部のシワに沿った2cm弱の切開創であるために目立ちませんが、腹腔鏡の場合は、臍のシワの部分の創と3mmの創とヘルニアの部分の針を刺した跡のみなので手術による創はほとんどわからなくなります。また、鼠径ヘルニアの場合は腹腔鏡手術でも入院期間や術後の経過は従来のヘルニア手術と変わりません(手術の翌日の退院が可能です)。

また、本年より、膀胱尿管逆流症(VUR)に対する逆流防止の治療法として、手術のように膀胱とお腹に創をつけることなく、膀胱鏡下に薬(DefluxR :OLC301)を注入し逆流を防止する治療を日帰り治療として開始しました。治療には全身麻酔が必要ですが、治療当日の朝に来診していただき、午後に帰宅が可能です。

その他、当院で行っている鏡視下手術は、鼠径ヘルニア以外にも、胃食道逆流症(GERD)に対する噴門形成術、アカラシアに対するHeller手術、お腹の手術操作が必要となる高位鎖肛やヒルシュスプルング病、卵巣囊腫や副腎腫瘍の摘出、血液疾患での脾臓の摘出手術、胸部では、漏斗胸、肺葉切除、横隔膜の手術など保険適応が認められている疾患に対してはほとんどの疾患で行っており、中でも噴門形成手術・脾臓摘出手術と漏斗胸手術のNuss法の経験数は日本でも有数です。

胎児診断も含めた周産期および新生児治療

近年、妊婦(胎児)の超音波検査の性能と技術の進歩に伴い、赤ちゃんの病気がお母さんのお腹に中にいる時から発見され、MRI検査などを加えることでかなり詳細にわかるようになりました。お母さんのおなかの中にいる赤ちゃんの様子を超音波で見ている時に、内臓の異常が見つかることがあります。胎児期に腫瘍(奇形腫、神経芽腫、リンパ管腫など)や横隔膜ヘルニア、CCAM(先天性嚢胞性腺腫様奇形)、食道閉鎖、腸閉鎖、鎖肛、腹壁破裂、臍帯ヘルニア、水腎症など様々な異常が見つかることがあります。

胎児診断がついた患者さんに対しては、産婦人科や新生児科と定期的にカンファレンスを開いて、各科が協力してその分娩の時期および分娩法から出生後の治療方針を決めます。我々のスタッフのほとんどが胎児治療では世界でも最先端の施設である米国の施設(カリフォルニア大学サンフランシスコ校:UCSFとフィラデルフィア小児病院:CHOP)に2年以上留学し、研究や手術などの臨床見学を経験しておりその経験をもとに日本での臨床を行っています。胎児治療とは、生まれる前に異常が見つかり、病気の進行により妊娠の継続が危ぶまれたり、出生後の救命が難しいことが危惧される赤ちゃんに対し、妊娠中に手術や治療を行ったり(手術した赤ちゃんは一度子宮の中に戻します)する治療です。日本で実際胎児治療を行うには様々な障壁がありますが、我々スタッフの米国での経験や知識を生かして最良の治療をすすめていきます。

新生児期に手術を行わなければならない病気としては、横隔膜ヘルニア・臍帯ヘルニア・腹壁破裂・食道閉鎖・腸閉鎖・腸回転異常・鎖肛・ヒルシュスプルング病・肥厚性幽門狭窄症など、多くの種類の病気があります。

横隔膜ヘルニア、臍帯ヘルニア、腹壁破裂

手術そのものの難易度は高くありませんが、術前術後の呼吸管理を含めた全身管理が重要かつ難しいのが特徴です。そのため、小児外科のみでなく新生児科のスタッフと一緒に治療をすすめます。また、最近では臍帯ヘルニアや腹壁破裂に対しては、脱出した腸管の還納法を工夫し、メスや縫合を行わず安全に腸管を腹腔内に戻すことを行っています。

CCAMなどの呼吸器疾患

当院では、年間に数例の肺や縦隔の手術を行っています。症例によっては呼吸器外科と一緒に胸腔鏡手術も行っています。また、CCAM(先天性嚢胞性腺腫様奇形)は、近年は胎児期に診断されることが多い疾患です。出生直後に急激に呼吸が悪化する場合もあり、当院では計画的に分娩を行っています。
数年前は、乳児期に胸腔鏡で手術を行っていましたが、最近では、手術・麻酔の安全性と肺切除後の呼吸機能のことを考慮し、新生児期に小開胸で手術を行っています。早い時期に手術を行うと、成長に伴う呼吸機能の改善が良好で、工夫をすれば手術後の傷も目立たず良好です。

食道閉鎖症

特殊な場合を除いて現在では一期的に食道をつなぐ手術を行います。術後は、胃が食道側に引っ張られるために胃食道逆流症も問題になってきます。

鎖肛

Penaが行っている術式に準じた手術方法で肛門形成を行っています。直腸の盲端が高い位置で終わっているタイプ(高位型)には、腹腔鏡手術を併用し肛門形成術を行います。また、尿路奇形や脊髄の異常を伴うことも多く、的確な診断を行うとともに尿路奇形の評価や小児脳外科医との協力が必要です。

ヒルシュスプルング病

正常な排便ができず、便秘やお腹がはるなどの症状が出現します。ヒルシュスプルング病が疑われる場合は、注腸検査、直腸肛門内圧検査、直腸粘膜生検により診断を行います。病変の広がりによって術式や術後の経過が異なってきますし、腹腔鏡による腹部の手術操作が必要なことがあります。

成人の外科グループとの合同による治療

東京慈恵会医科大学の小児外科は、外科学講座の6つの診療部の1つです。そのため、当院の成人領域での治療経験が豊富な胸腔鏡や腹腔鏡手術に対して協力し最良の治療を行うことが可能です。鏡視下手術以外にも胸部外科(縦隔や肺の疾患)、肝胆膵外科(小児では症例が少ない肝臓や膵臓の腫瘍や外傷および胆石など)の治療や内視鏡を使った診断や治療(食道静脈瘤の硬化療法・胃瘻造設・ポリープの切除など)も柔軟に対応が可能です。

その他、小児外科で行っている治療内容に関しては、東京慈恵会医科大学外科学講座のホームページや母子センターでの専門外来(胸郭変形外来・小児外科小児泌尿器外来)もご参照ください。

過去5年間小児全身麻酔手術総数

  • 2010年 449例
  • 2011年 417例
  • 2012年 459例
  • 2013年 438例
  • 2014年 410例